5-3 人生終了RTA? 友達がいなければ問題ないじゃない



「深瀬さん。いくつか対策を考えたんですが……これを見てもらっても良いですか?」


 対グリフォン対策のため、僕等は動画をもう一度確認する……間に、面白いものを見つけた。

 彼女に見せると「は?」と眉を寄せる。


「え、何してるの、この人? 戦闘しないで、フィールドの端っこで……ノート開いてる?」

「獅子王さんだね。ボス戦中に、中間試験の勉強してるみたい」

「斬新すぎる勉強方法ね! これ寄生プレイじゃないの? 友達が戦ってるのに任せきりなんて」

「代金を他の人に払って、戦闘の代理をお願いしてるんだと思う」

「そういうの、アリなの……?」

「試験の時にさ、ご飯奢るからノート貸して、とか、レポート作り手伝って、ってあるじゃない? それと一緒だと思うよ。友クエの試験は”グリフォンを倒すこと”であって、一人で倒しなさい、じゃないからね」


 むしろコミュニケーションを取って正しく役割分担できているなら、友クエの理念に正当に乗っていると思う。

 友達かどうかはさておき、一緒に戦うだけが人間関係ではない。


 が、深瀬さんは眉を寄せてちょっと嫌な顔をした。


「でも……空気が悪くなったりしない? アイツだけサボってるとか、金に物言わせて、って陰口たたかれたり」

「気持ちは分かるけど、それは空気感の押し付けみたいで嫌かな、僕は。一人だけテストで90点取った時『あいつだけ先生にいい顔して』って妬むより『わー凄いね!』って一緒に喜べた方が、いいよね」

「……蒼井君も、そういうタイプ?」

「少なくとも僕は、友クエを十五人でクリアしても、二人でクリアしても価値は同じだと思うよ」


 なんて話してる間に、グリフォンの落雷が獅子王さんに命中した。

 が、彼女は鬱陶しそうに髪を払うだけだ。


「ここなんだけどさ。【ゼクスサンダー】は高威力の六連続攻撃だけど、六連撃になってるぶん、防御をガチガチに固めれば、一発あたりのダメージをかなり軽減できるんだ。つまり防御を固めれば魔法攻撃は怖くない」

「けど、波動はどうするの?」


 僕は彼女に耳打ちをした。

 あの攻撃が人数割なら――


 深瀬さんの瞳に、理解の色が広がる。


「あと後半、敵のHPが50%を切ると近接戦になるんだけど……攻撃が全体的に、大振りなんだよね。十五人でわいわい攻撃してると他人にぶつかって回避ミスしたりもあるけど、僕ら二人なら頑張れば避けれるかなと。高速の稲妻キックは、敵の背後にいなければ当たらないし」


 敵の物理攻撃は、回避できる。魔法攻撃は防御を固めて無効化。波動は対策がある。

 残る課題は――敵HPを削りきる火力。


「深瀬さんが話した通り、毒をメインにできればなぁと。ただ、それだけじゃ足りない気はするね」

「ええ。毒ダメージを永遠と与え続ければ、50%くらいは削れると思うけど……」

「そこに魔法攻撃および攻撃アイテムを持ち込んで……ざっと計算すると――」


 動画を見た印象と、僕らの火力。

 【火炎弾】などの攻撃アイテムをわんさか投げたとして、およそ――


「十時間くらいかければ……」

「十時間なら、土日使えばいけるわね」

「いや待って、普通に考えて十時間連戦はちょっと。ご飯とか睡眠とか、それにお手洗いとか」


 人間は生理現象に逆らえない。

 途中で休憩できるRPGならともかく、アクションゲームでは致命的であるはず――


 そうね……と、深瀬さんは真顔で頷き。

 真顔で決断した。


「蒼井君。極まったRTA勢はゲーム開始前に紙おむつを装備するそうよ」

「いや待って、僕の人生RTAじゃなくて平穏無事なスローライフ目標なんだけど」

「でも試験で赤点取ったら人生ハードモードでしょ?」

「高校の試験に人の尊厳を賭ける方がハードだからね!? てか普通に友達にドン引きされるよそれ」

「友達がいなければ失うものもないわ」


 だとしても僕は君のお母さんに「中間試験のために娘さんに紙おむつ履かせました」なんて口が裂けても言えない。

 あと担任や学校にバレたら社会的に死ぬ。


「それにさ、紙おむつ作戦をしても、十時間アクションしたら集中力が切れるよね?」

「まあ……」

「現実的に考えよう、深瀬さん。もし十時間のプレイ中に我慢出来ず”事故”が起きて、しかもミスプレイで負けたら、現実に残るのは虚無の十時間と悲しい結果だけだよ……いや僕自身なんの話してるんだって思うけど、その時のやるせない気持ちを想像したら、なんていうか、もう少し勝率を上げるべきかなと」

「そ、そうね。まああたしも失うものはないって言ったけど、”事故”を起こす覚悟があるかと言われると、悩まし――」

「悩まなくていいから! 即決だから!」


 危ない。

 危うく、娘さんを傷物にした責任取ってくださいとか言われかねない事態になる所だった。


「五時間。せめて五時間に絞ろう。もっと高火力の攻撃アイテムとか、毒より強い【猛毒】アイテムとかあればいいんだけど……」


 防御を捨てたら敵の攻撃に耐えられない。けど攻撃を捨てたら敵のHPが削れない。

 強力な搦め手があれば良いのだけど――


 と、深瀬さんがふと眉を上げ、困ったように髪の毛をいじり始めた。


「その……方法がない、わけじゃないわ」

「え」

「ただ、確証がないから……明日まで待ってもらえないかしら?」


 深瀬さんが、何かを決意したように唇を嚙む。

 いつもの「あたしにいい考えがあるわ」は聞けなかったけど、彼女には何かしら、アテがあるようだった。


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