2024年 6月
「虎に翼」前半(ドラマ)
正確な回数で半分かは分かりませんが、4月から9月放送の朝ドラ、6月が終わったので半分ということで。
できるだけそうならないように気をつけて書きますが、もしかしたらちょろっとぐらいネタバレにかするかも知れないので、そういうことすら知りたくないという方はここまででお願いいたします。
いやあ、素晴らしいドラマです。ここまで見てきた朝ドラの中で1位を争う出来だと思います。
最初にタイトルを見た時、
「え、天武天皇の話? 朝ドラで古代舞台でやるの?」
と思い、次には、
「伊藤沙莉でおにぎり屋さんのドラマだったっけ」
と、次の橋本環奈主演のドラマとごっちゃになるぐらい、特に思い入れもなく見始めたんですが、こんなに面白くなるとは思ってもみませんでした。
見ていらっしゃらない方のために簡単にかいつまんで説明を。
寅子と書いて「ともこ」と読み、愛称で「とらちゃん」と呼ばれてもいる主人公は、昭和初期の日本では当然の、女学校を出たら結婚して家庭に入るのが幸せという認識になんとももやもやした気持ちを抱き、お見合いに行っても乗り気になれない。親友の花江は寅子の兄と婚約し(一目惚れした花江が計画的に結婚にもっていった結果)卒業後は結婚が決まっている。それが一般社会の幸せなのだと頭では分かっている。
自分は結婚の何がそんなに嫌なのか分からず、かといって特別やりたいこともない寅子だが、ある日書生の雄三さんが通っている法学部の夜学にお弁当を届けに行った時、衝撃的な言葉を耳する。
「女性は結婚すると法的不能者となる」
なにそれ! そうか、自分が嫌だと思っていたことの正体がここにあった!
そう、当時の民法では、女性は結婚すると全ての権利を夫に譲渡し、その代わりに保護してもらう立場になります。もっとも、これは「父の娘」であっても同じこと、その女性を保護管理する権利が夫に移るだけのことなんですが、そのことについては特に触れられてはなかったですね。寅子の父は寅子に何かを無理強いするような父親ではないので、意識してなかっただけかも知れませんが。
とにかく、その真実を知って驚愕する寅子は、教授に「法律に興味があるならできたばかりの女子部に来たらどうか」と誘われ、なんやかんやあった挙げ句合格し(寅子は女学校でずっと2位の学力)女子部に進学する。
だが、女子部は男子学生から「魔女部」と呼ばれてからかわれ、勉強を続けるほど結婚から縁遠くなると言われる存在。数十名いた同級生も1人減り、2人減り、法学部に進学する時には先輩2人、寅子の学年が5人というありさま。
そして同じく法律の道を志す友たちに色々とふりかかる苦難、その結果……
と、当時女性が法律の世界を目指すのはエベレストでも登るかのような苦難の連続なのです。
戦前、そうやって法学部に進学し、卒業して今でいう「司法試験」に合格した寅子ですが、弁護士資格を手にしてもやはり旧民法下、当時の女性感の下では思ったように弁護士の仕事もできない。そして戦争に突入し、今は戦後、新民法の元で旧民法下では女性がはなれなかった裁判官としての道を歩み始めます。
と、ストーリーとして書くと単なるサクセスストーリーのようなんですが、これがそんな簡単なドラマではないのです。何しろ一部の隙もない。まずはその脚本が素晴らしくて脱帽です。
主人公の寅子は主演の伊藤沙莉のキャラに当て書き、つまり演者のキャラを活かすように書いているそうなんですが、これがまずいい。
正直、伊藤沙莉という役者は「かわいい」という人ではない。私がこの人を初めて見たのは「ひよっこ」で、お米屋さんの一人娘の「米子」なのですが、父親とぶつかるかわいげのないが、よく知ると味のある独特のかわいさのあるキャラがなんとも抜群でした。その同じ路線の寅子を見事に演じきっています。
それからその他のキャラもみなそれぞれにしっかりとした造りで、セリフの一つ一つが「この人ならそう言うだろう」という言葉を抜群のタイミングで言わせる。今週を見た方なら「梅子さんかっけー!」と大拍手してしまうだろうと思いますが、いや、まさかあんなことになるとは。
どこかで読んだのですが、
「寅子を持ち上げるために並べるキャラがいない」
という意見に同意です。
よくある、主人公を良く見せるために対抗馬に性格悪い人を持ってくるとか、あきらかにこの人間違えてるよねという人がいない。その一番手が兄嫁で親友でもある花江ちゃん。
花江は先にも書いたように、卒業即長男の嫁としての生き方をしている人。そのことに「自分だけ何もない」と泣いたこともありますが、専業主婦としての道を貫くこともきちんと選んだ道なのだとして描かれています。
てっきり今週のラストで花江ちゃんも仕事をするとか、恋をするとか新しい道に進み出すのかと思ったら違いました。いや、それこそ「白旗を揚げます」です。
そしてそれまで完璧だった寅子の母、姑に対して「自分はお義母さんに叶わない」とどこかでコンプレックスだったことを「自分はお義母さんよりここが優れている」とさらっとした一言で言わせて「花江ちゃんかっけー!」と言わされてしまいます。
主人公だけがかっこいいんじゃない。がんばってる人みんなかっこいい。それが今季の朝ドラ「虎に翼」だと思います。
正直、途中まで「このドラマめっちゃおもしろい!」と見ていて、途中から「ああぁ……」となってしまったドラマもいくつもあります。折り返しから今後、寅子が裁判官としての後半人生がどう描かれるか、それによって最後の評価も変わる可能性だってあります。
ですが、今までを見てきたら、多分最後まで「かっけー!」で終わるドラマじゃないかなと思えるんです。
正直、「ここはちょっとどうかな」と思う部分が全くないとは言いません。「このへんの解釈ちょっとなあ」と思える部分もありました。でも全体的に見たら上の上の作品です。
もしかしたら流行語大賞を狙ってゴリ押ししてたか? と思う例のセリフも、最初は毎回押し込んできてげんなりしましたが、今は時々ちらっとはさむだけで特に嫌でもなくなったし、流行らないなと判断したからでしょうか、その扱い方の変化も見事だなと思っています。全く触れなくなるのも変だし、前みたいに入れまくられたら見るのが嫌になってたかと思いますが、なかなかうまい程度の入れ込み方にとどめています。
いや、あれはどうやっても流行らないって。それよりはにーちゃんの「俺には分かる」の方がずっと記憶に残るし、そのセリフを継いでる息子も微笑ましい。そして今週ラストでの持ってき方も本当にうまかった。
よろしかったら後半からでも見てみませんか? 再放送があったらもう一度見たい、そう思わせてくれる、見る価値のあるドラマです。
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