2023年 8月
らんまん(ドラマ)
朝ドラ、ずっと見ています。今はもう面白いかどうかじゃなく、生活習慣のように「朝になると見るもの」という感じになっています。ルーティーンの一つですね。
なので、半年ずつ、面白い時と面白くない時、自分に合っている時合っていない時、色々ありますが、それでも欠かさず見続けています。
今回の、
「らんまん」
は、とても面白いです。
脚本も演出もいいし、役者さんもうまい方ばかり、そしてオープングの歌もいい。
それは細かいところで多少のことはありますが、それは個人差とか、どうしようもないこととかもありますので、「これはどうよ」とひっかかって、というほど理不尽な部分はないと言っていいと思います。
主人公の万太郎は、実在の人物をモデルとして描かれている植物学者なんですが、簡単に言うと、
「植物界のさかなクンや~」
と、思ってもらうといいでしょう。
植物が好きで好きで、植物さえあればなーんもいらねえ。純粋に植物を愛し、植物からも愛される人、そんなキャラです。
その万太郎が、色々あって東京大学の植物学教室に出入りを許されるのですが、そこの一番偉い教授が万太郎と正反対と言っていいキャラとして描かれています。
田辺教授は努力の人です。元は官僚として渡米し、そこで学問をやりたいと無理矢理のように国費留学生となり、その頃、まだ日本では知られていなかった植物学なら第一人者になれるだろうとその道を選び、東京大学の植物学教授、つまり日本の歴史上の植物学教授の最初の人になります。
優秀で、学校のことだけではなく、海外へ向かって必死にアピールを続ける明治政府からも評価され、色々と忙しく動いている方です。小学校中退、何も実績のない万太郎を認めて植物学教室に特別に出入りを許してくれたのはこの田辺教授です。
なんですが~、それは、あくまで田辺教授という人が、万太郎を「使える人間」と判断し、自分の支配下に置けると思っていたからです。
万太郎が植物を愛し、そのため植物に愛されているような人間だと理解するうちに、田辺教授は万太郎に対して複雑な思いを抱くようになっていきます。
自分が必死に探し求めて見つけられない新種の植物をあっさりと見つける万太郎、何も持たないはずだった万太郎が、みんなに愛され、知らないうちに「植物学教室にとって欠かすべからざる人物」になっている事実に、教授は嫉妬していきます。
外から見ると、自分こそが全てを持っている人間であるはずなのに、「一番欲しいと思っているもの」だけはどうしても手に入れられない。
それは、万太郎こそが植物に選ばれた人間だということ、です。
そして万太郎がまたねえ、そういう人間の
「無垢で無知な人間」
愛情を持って、ある人が万太郎をそう評しますが、まさにそういう人間です。
「持っている物しか持とうとしない人間」
である万太郎と、努力で全てを手に入れてきた教授、そしてあることからとうとう教授の神経は、万太郎を許せないとブチ切れます。
と、ここまでが7月までの物語です。4月から始まって、ある意味順風満帆だった万太郎の人生で、もうここまでか、と絶望するような出来事が起きています。
拙作の「黒のシャンタル」にも、全てを持っていると思われるキャラが出てきます。リルというシャンタル宮の侍女なのですが、この子が本当に、生まれてから手に入れられなかったものはない、という子なんです。
家は国でも指折り数えられるほどの大商会、美人で頭もよくて、これまでなんでも自分が願ったことが叶ってきた子です。唯一、幼い時にシャンタル宮の侍女の募集に応募して、これほど賢くてなんでもできる自分は当然選ばれるはずと思ったら選ばれなかったんですが、その時も親の力を借りて無理矢理のように侍女として採用してもらえました。
そして、そんなリルが、唯一どうしても手に入れられないものができた時、田辺教授のように暗い心を抱いてしまうのですが……
よろしければこの先は本編「黒のシャンタル・第一部」でお楽しみください。
などと、宣伝を入れつつ、先を続けます。
話は戻って、万太郎という人物、元は土佐一番の造り酒屋の跡取りとして生まれ、お坊ちゃんとして育ちます。それだけに、
「してもらうこと」
に慣れすぎて、返すことにも無頓着、それが、常に自分の利を考えて動く田辺教授の最後の1本の神経に触れてしまったわけですね。
「万太郎、おまん、植物のことはなんでも分かるき、人のことはなんちゃあ分かっとらんわあ」
と、思わず言ってしまいました。
もしも、田辺教授を純粋な悪役として描いていたら、ここまで面白くなかったでしょう。
私は何も持っていない人間ですが、田辺教授の気持ちが痛いほど分かります。なので、万太郎の失態、このままでは植物の研究を続けられないことになった失態も、それは万太郎が悪いと思って見ることが出来ました。
本当に脚本が素晴らしいと思います。
実際にいた人物、あった出来事を、うまくうまく、脚本家が自分の中で噛み砕き、それぞれのキャラに肉付けをして「お話」を仕立てています。
もちろん、それを理解して演じていらっしゃる役者さんたち、そのスタッフさんたちも素晴らしいのでしょうが、その基礎になる脚本がこれほど素晴らしいからこそ、その力を発揮できるのだと思います。
万太郎のモデルになった牧野富太郎博士が植物学者としての第一人者として認められ、成功してるからこそドラマになっているわけで、万太郎も今度の危機も乗り越えていくとは分かっているんですが、それでも「どうなるなろう」ドキドキしながら、毎日楽しみに見てします。
もう半分以上進んでしまったドラマですが、これからでも楽しめる気がします。
よろしければ、あなたの朝のルーティーンに入れていただけると幸いです。
良質のドラマは、見ていて本当に心の栄養になると思います。
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