グラン・ローヴァ物語(漫画)
紫堂恭子のファンタジー、全4巻です。
主人公は「ケチな詐欺師」のサイアム。若くてなまじ見た目が良いもので、賢者の扮装で「ハウツー本」などを片手に適当なことを言うとそれらしく見え、「偉い賢者様」として地方の貴族や領主の館でもてなしてもらえるので、そうして生活をしている。
ある時、やはりその日もぐうたらともてなしてもらっていると、
「サイアム様、グラン・ローヴァ様がこの地方にいらっしゃるそうです、ぜひ賢者同士でお話でも」
と言われ、どびっくり!
何しろこちらは「ニセ賢者」である。もしも正体を見破られたらどんな罰を受けるか分からない。
「グラン・ローヴァ様は気難しいお方、私が出迎えに参りましょう」
と、とっととお屋敷を抜け出して野宿の途中、小さくて丸くて頭つるつる真っ白なひげをはやしたおじいさんと遭遇します。
このおじいさん、人にたかって生きているサイアムにさらにたかって食事をねだるという呑気者。
イラついたサイアムが、
「自分はグラン・ローヴァを迎えにいかないといけない!」
と追い払おうとしたところ、
「わしじゃよ」
とちゃちゃっ、ちゃちゃちゃっ、とポーズを決めて見せるので、
「こいつ、同業者だな」
と、サイアムが難題をふっかけて化けの皮をはいでやろうとするものの、役に立たないばかりか毒にも薬にもならない。
「おまえ偽物だろう!」
さらにイラついたサイアムがそう言うと、
「その通り、なんでそう呼ばれてるのかわし本人にも分からんのじゃ」
と、なんと、本物のグラン・ローヴァ、旅の大賢者でした。
と、この二人の出会いから旅が始まり、小さな妖魔兄弟、見た目はかわいらしい女の子ながらその本体は「ハイドラ」という大蛇のお嬢さん、ずっと覆面で顔を隠しながらサイアムを敵視する謎の男などと出会ったり別れたり、敵対したり助けたり助けられたりと話が進んでいきます。
その間にサイアムはあることから大変な力をその手にしてしまいます。そしてさらに巻き込まれる様々な事件。
太古の世界から精霊や妖魔など、いろいろな生き物が生きていたこの世界、どんどんと力を失い、もうすぐ失ってしまうかも知れない。そんな旅の中でサイアムは、そしてグラン・ローヴァはどのような生き方を選び、どのような結末を迎えるのか。
いつの頃から「ファンタジー」と呼ばれるお話は世間に砂の数ほども生まれていますが、中には「とにかく不思議なことを書いておけばいいだろう」と、私は「なんちゃってファンタジー」と読んでいる作品も多い中、紫堂恭子の作品はどれも本物のファンタジーと呼べるお話ばかりです。
人の優しさ、残酷さ、愚かさ、それらを恐れる者、信じる者、時にぶつかりながらもみんなこの世界を愛している。そんなことを知ることができる、優しい優しい物語です。どうぞご一読いただいと思います。
それから、今回これを書くに当たってちょっと調べて分かったんですが、私が持っている初期の単行本以外に他の出版社からも他の編成で出版されており、そこに描き下ろしや、単行本には収録されていないお話なども入っているようです。
どんなエピソードが描かれているのかなあ。読みたくなってきたぞ。
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