小椋夏己の見聞録

小椋夏己

2022年 10月

乙嫁語り(漫画)

 「乙嫁おとよめ」とは「美しいお嫁さん」という意味らしい。


 森薫の長編漫画で2008年から連載開始、現在14巻までコミックスが出ています。


 舞台は中央アジア、ある草原の一族から町の一族の元へ1人の花嫁が嫁いできます。

 花嫁の名前は「アミル」、二十歳。

 花婿の名前は「カルルク」、12歳。

 8歳年上の姉さん女房、当時の適齢期は15、6歳らしく、アミルはかなりの晩婚のようです。


 この一組の夫婦を中心に、色々な「乙嫁」たちの話が繰り広げられます。

 何度も結婚することになった乙嫁、理想の花婿を探し求めるおきゃんな乙嫁、なかなかいい結婚話が来ない不器用な乙嫁候補、親友と夫を共有する乙嫁たち。

 そしてもちろん、乙嫁と結ばれる夫、夫候補たちにも様々な人がいて様々な事情が。


 時にほのぼの、時に厳しく、辛く悲しい物語と、それを見つめる外の国の人。

 紡がれた個々の物語がこの外の国の人によって細い糸でつながっているのが見えてきたりもします。


 そして最新刊14巻では、背後に迫る強大な敵、凍らない港を求めて南下してくるロシアに対抗すべく、相容れない者たちが手を組もうという話になります。

 草原の民も町の民も、共に戦わなければロシアに飲み込まれてしまう。


「手を組もう」


 呼びかけにいくつかの部族が集まり、そのために、


「縁を結ぼう」


 という話になります。


 ある部族の若いおさはまだ未婚、同じ氏族の他部族の娘と婚姻の絆を結び、結びつきを確固たるものにしよう、そんな縁談が持ち上がります。


 そしてそのために集まった草原、娘たちの部族の族長が、


「草原の女たちは強い男にしか嫁がない、馬くらべで決めよう、勝負に勝ったら嫁にやる!」


 と、競争に参加する者、それに伴走する者、勝負を見たい者、数え切れないほどの馬が草原を走り出します。


「赤い布を巻いた矢を取ってきた者が勝ち」


 走って走って走って、そして勝負の行方は!


 さて、世紀の嫁取り合戦の行方はどうなるでしょうか?


 この「馬競べ」がそれはもう壮大で面白いのです。

 森薫の緻密な筆で馬も、人も、草原も、まるで目の前でレースが繰り広げられているかのようにリアルに迫ってきます。


 もちろん、我らがアミルとカルルク夫婦もレースを一緒に追いかけております。

 この時、二人は結婚から1年、21歳と13歳。歳の差は変わることはありませんが、カルルクはぐんと成長して大人になってきて、二人の絆もますます強くなってきています。


 この先、中央アジアの運命を知る私たちは、この物語の人物たちの行く末を不安な目で見守るしかないのですが、どんな時代になってもきっと乙嫁たちは強く強く生きてくれるはず。きっと幸せな人生を送ってくれるはずだと思っています。


 そして物語とはちょっと違うのですが、このコミック、初版には森薫のイラスト付きのアンケートハガキが付属しています。私はかなり後からこの本を買い始めたもので、どうしてもハガキが欲しくて古本屋巡りをして全部手に入れました。執念です! そしてもちろん、アンケートに使ってはいません! だってもったいないから! 

 でも大丈夫、アンケートは普通のハガキでも出せますので。作者もあとがきでそう書いてますので、安心して集めて下さい!

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