第20話、病欠
俺との朝の勉強会はメアの成績向上に貢献していた。
7時15分には教室に集まって、そこから大体1時間くらいの勉強時間でも効果は高かった。メアの成績が振るわなかった理由は彼女の物覚えが悪いとかそういうのではなく、勉強の仕方が悪かったという、ただそれだけの理由だった。
コツを掴めばすらすらと問題を答えるようになれたし補習の機会も無くなった。この調子で勉強会を続けられれば、彼女が赤点で追試を受ける事はないだろう。
今日も朝から勉強会をしようと準備を済ませて学校に来て、教室でメアが登校してくるのを待っていたのだが、何故か彼女が姿を現す様子はない。いつもの7時15分はとうに過ぎてしまい、俺は椅子に座って窓の外を見ながら彼女が来るのを待ち続けた。
彼女はスマホを持っていなくて自宅の電話番号も教えてもらってない。こちらからの連絡手段は無く、一体何があったのだろうと心配していた。続々と登校してくる他の生徒達、姫月に明るく挨拶されて、朝から翔太や他のクラスメイトからも絡まれて、遂には始業時間がやってきてしまう。
俺の隣の席は無人のままホームルームが始まった。そこでようやく俺は『メアが今日は病欠』だという話を耳にして、彼女が学校に来ない理由を知ったのだった。
昨日までは元気のはずで、具合が悪そうには見えなかったのだが……もしかすると俺が提案した勉強会が実は嫌だったんじゃないかとか、考えれば考えるほど不安が募っていった。
そして今日もあっという間に放課後だ。
いつも隣にいるメアがいないだけでかなり調子が狂ってしまう。昼休みの弁当もあまり喉を通らなかったし、今日の授業は全く頭に入らなかった。まあ授業の方は勇者のスキルがあるから特に支障があるわけではないのだが。
メアのいない文芸部室に用もない。今日は真っ直ぐ家に帰ろうと思った時、担任の教師が俺に話しかけていた。
「おい、斎藤。ちょっと良いか?」
「どうしました? 先生」
「雨宮、今日は欠席してたろ。それで雨宮の所にお前からプリントを届けてもらえないかと思ってな」
「でも俺、雨宮の家とか知らないですよ?」
「住所は教えるし今はスマホでナビとか使って場所も分かるだろ?」
「まあそうですけど……俺で良いんですか?」
「そりゃ雨宮と一番仲の良い生徒って言ったら斎藤だろうし、お前も今日は随分とそわそわしてる感じだっただろ。見舞いに行ってやれ」
そうか、自分では心配している様子は見せまいと思っていたが、どうやら丸わかりだったらしい。
担任はメアの住所が書かれたメモと配る予定だったプリントを俺に手渡した。必ず届けるように言った後、彼は職員室へと向かって歩いていく。
「雨宮の家……か」
担任の言う通り、メアとはかなり仲が良くなってきた。
異世界から続く関係。俺が勇者でメアが魔王で、こっちの世界では彼女のお弁当を作るところから始まり、文芸部室で一緒に本を読んで過ごすようになったり、一番距離が縮まったのはやはりお出かけの時だろうか。
しかし仲良くなってはいるもの、彼女の連絡先も家の住所も知らなかったわけで、一緒に遊んで帰った時も送り届けたのは彼女の家の途中まで。
翔太の話では雨宮の家はとても貧乏だと言っていた。これは彼女への新たな力になれる良い機会になるかもしれないし、何より彼女の容態が心配だった。
俺は渡されたプリントを丁寧に鞄の中にしまい込み、担任から渡された彼女の住所をスマホのナビに入力する。雨宮の家に行く前にコンビニで栄養の付くものや飲み物、メアが元気になるような色々なものを準備していかなくては。
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