ながれ星におりぼん
桐月砂夜
なかないでうさぎちゃん
なかないでうさぎちゃん
ある日、うさぎちゃんは森で迷ってしまいました。
おかあさんが奥に行ってはいけないと、あれほど言ったのに。
かわいらしいリスを見つけて、思わず追いかけてしまったのです。
リスのくるくるしっぽはいつのまにか暗がりに消えて、気づけばあたりはまっくらでした。
どうしよう。
うさぎちゃんはなみだが出そうになりました。ここはおおきくくらい、森のなか。
うさぎちゃんは、ひとりぼっち。
どうしよう。
うさぎちゃんから、ぽろぽろなみだがあふれてきました。
おかあさん。会いたいよ、おとうさん。
おい、とあたまのうえから聞こえて、うさぎちゃんはとびあがりました。
あわててそばの草むらにかくれようとしましたが、足元にあったちいさな石でころんでしまいました。
顔を上げると、そこにはまっくろでおおきなオオカミが立っていました。
なにをしているんだ、こんなくらい森で。
うさぎちゃんをひょいと拾い上げて、オオカミは言いました。
食べられちゃう。
うさぎちゃんはオオカミの手のなかでぱたぱたしましたが、それはなんのやくにもたちませんでした。
オオカミはうさぎちゃんを見てから、そらを見上げて、言いました。
ああ、くもっていたから気づかなかったが、今夜はまんげつだったのか。
そしてオオカミはどすどすおおきな足音を立てて、歩いてゆきます。
うさぎちゃんはもうこわくてこわくて、おみみでじぶんのおめめをかくすのでせいいっぱいでした。
ほらよ。
オオカミの手がじめんにおりて、うさぎちゃんはおめめをあけました。
オオカミはうさぎちゃんを、森の出口へとつれてきてくれたのです。
よかったな、今夜がまんげつで。
オオカミの言ったことはうさぎちゃんにはよくわかりませんでしたが、食べられずにすんだので、なみだがひっこんだうさぎちゃんはオオカミにぺこりと頭をさげました。
しかしかおをあげると、もうそこにオオカミの姿はありませんでした。
うさぎちゃん!やっとみつけたわ!
その声にびっくりして、うさぎちゃんはふりかえりました。そこにはおとうさんとおかあさんがたっていました。
おかあさん!おとうさん!
うさぎちゃんはまたぽろぽろなみだが出てしまいました。
けれどふかふかのお母さんのおててがとても温かかったので、うさぎちゃんはとてもあんしんしました。
うさぎちゃんは森の奥をふりかえり、オオカミさんのことをおかあさんに話そうかと思いましたが、やめました。
うさぎちゃんとオオカミさん、ふたりだけのひみつにしたかったのです。
けれど、きっとうさぎちゃんはもう、あの森にゆくことはゆるされないでしょう。
あのやさしいオオカミさんのおおきな手をおもいだして、うさぎちゃんは悲しくなりました。
そのよる、うさぎちゃんはおへやのまどからオオカミが言った、まんげつ、を見上げていました。
まんげつはぽうわり、ひかっていました。
オオカミのおめめのように、それはやさしいひかりでした。
うさぎちゃんは、カーテンを閉めてベッドに入りました。
すると、あおーん、あおーん、とどこからかきこえてきます。
ああ、オオカミよ。
こわいわ。
おかあさんがおとうさんと、となりのへやで話しているのがきこえました。
けれどもうさぎちゃんはオオカミのこえをきいて、にこにこしました。
オオカミさんがまっくらやみでひとりぼっちだったとしても、うさぎちゃんのことをわすれていないといいなあ、とうさぎちゃんはおもいました。
おやすみなさい、オオカミさん。
いつかまた、あえますように。
だいすきよ。
うさぎちゃんは、めをつむりました。
あおーん、あおーん、はまんげつのしたで、いつまでもきこえていました。
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