ポンジ・スキーム

再誕歴7525年ノーベンバーH日。


ベネルクス王国首都国王直轄領ブリュッセル。

外側アウターエリアにあるミューの父親が興した商会である

ズベイ商会は大変な危機に遭っている。


「会長!! ミハネ商会が飛びました!!」

「何だと!?」


ズベイ男爵は驚愕の表情を浮かべた。


「ミハネからの支払いは!?」

「最初の一回だけです!!」

「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」


ズベイは机を思い切り叩いた。

従業員達はぎょっとしながらズベイを見た。

ズベイ男爵の息子であるミューがレオポルドの側近になってから

ズベイ商会の業績は一気に下降していった、 貴族達からの取引が無くなり

貴族達の紹介された者達も居なくなっていた。

普通に考えれば婚約者が居るのに他の女を侍らせるレオポルドの様な男の側近に

息子を配置すればこうなるのは自明の理なのだが政治能力に疎い

ズベイには分からなかった。


ズベイは流行を見る能力が有り

先読みで商品の大量仕入れと売買で多額の利潤を獲得していったのだ。

政治的なセンスは無いのに商売が上手い、 ある意味天才よりも凄い逸材である。


「どうするんだ!!」


しかし仕入れの金が無くなれば一気にピンチになる。

昨今の取引停止が相次いでいる状況。

久々の取引相手ミハネ商会へ貴金属の販売を行った。

分割支払いだったが金がない状況では背に腹は代えられず取引を行ったが

早々に裏切られる事になったのだった。


「不味い不味い不味いぞ!! これでは来月の支払いは如何すれば良い!!」

「一旦まずはミハネへ商品の差し押さえ手続きを!!」

「弁護士先生に伝えろ!!」

「はい!!」


従業員は走って行った、 ズベイは頭を抱えて座っていた。

既にここ最近のストレスの影響でズベイの頭には一本たりとも髪の毛は無かった。


「父さん?」

「・・・ミューか・・・悪いがお前の事を構って居る時間は無い」

「如何したの?」

「取り込み詐欺※1 に遭った」



※1:代金後払いで商品を注文し商品を受け取るも代金を支払わず商品を詐取する物。



「大丈夫なの!?」

「大丈夫じゃねぇ!! ウチの在庫の中でも一番高価な貴金属が奪われたんだぞ!!

しかも支払いも無しだ!! これじゃあウチの商会はもう終わりだ!!」


ぜぇぜぇと肩で息をするズベイ。


「・・・・・父さん・・・」

「・・・すまなかったな、 取り乱して・・・それで何の用だ?」

「い、 いや、 良いよ、 ごめんなさい・・・」


ミューは去って行った。




「不味いな・・・如何しよう・・・」


ブリュッセルの街中を歩きながら考えていたミュー。

レオポルド王子が使える金が少なくなって来たので金の工面に商会に来たのだが

まさかこんな状況とは夢にも思わなかった。


「金の工面が出来なくなったら俺なんてお払い箱じゃないか・・・如何すれば良い・・・・・」


考えを巡らせるミュー。

考えに考えを巡らせた結果、 彼が考えたのは・・・・・




再誕歴7527年フェブラリー8日。


ベネルクス王国首都国王直轄領ブリュッセル。

ベネルクス王立学園、 中庭。


「投資ですか?」

「あぁ、 そうなんだ、 実は良い投資家の先生が居てね

父の友人なんだ、 彼は投資で利益を上げる実績が欲しいから配当金は

1クォーター4か月、現実世界で1月10%支払うと言っている」


中庭でミューはレオポルドに群がる下級貴族の子息とベンチで話していた。


「1クォーターで10%、 それって凄いんですか?」

「銀行利息が1年で2%と考えると段違いだ

さっきも言ったが先生は実績作りの為の利益度外視でやってるから今だけのチャンスだ」

「うーん・・・」


考える子息。


「ミューさん!!」


別の子息がやって来た。


「あぁ、 君か、 如何したの?」

「今日は配当の日ですよ」

「そうだったね、 はい、 これ1万ユーロ100万円

「!?」


現金現ナマを渡すミュー。


「1万ユーロが配当と言う事は・・・10万ユーロ1000万を投資に!?」

「そうだよ」

「そんな金、 何処から・・・」

「親から借りたよ、 レオポルド殿下の側近の方の紹介だし

これは絶対に当たる馬券みたいなもんだぜ? 全額ツッコむだろ」

「・・・・・ミューさん、 お金は用意しますので」

「分かった、 だがなるべく急いでね」


ミューは去って行った。


「・・・・・ふぅ・・・」

「美味しい話じゃない」

「うわ!?」


廊下を歩いているミューの後ろにナンナが現れた。


「あたしにも一口噛ませなさいな」

「・・・止めとけ」

「なんでぇ?」

「・・・・・投資詐欺だからだよ」

「やっぱりね、 典型的なポンジ・スキーム※2だから怪しいと思った」



※2:投資詐欺の一種。

『出資してもらった資金を運用しその利益を出資者に配当金として還元する』と嘘を語り

実際には資金運用を行わず後から参加する出資者から新たに集めたお金を

以前からの出資者に向けて“配当金”などと偽って渡し

資金運用での利益を出資者に配当しているかのように装い騙し取る手法。



「こんな事してたら破綻しちゃうわよ」

「契約書も何も無い、 いざとなったら殿下に何とかして貰うさ」

「あ、 そ」

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