伍第36話 迷宮の奥へ
魔獣の走り去った先は回廊型の特徴があり、採光を使っても大して効果が得られなかったので殲滅光の剣身を伸ばし起動させたままで進む。
青白い光に壁と足元が照らされて『平ら』であることが解った。
どうやら、何かの建物の中みたいな雰囲気だが……迷宮と混ざったにしては、少しばかり様相が違う気がする。
人が作ったものと迷宮が繋がったのではなく、迷宮を人が作り替えた……?
いや、それは無理だな。
皇国の貴族みたいに余程魔法が強くないと、迷宮内に何かを建設するなんてできない。
この場で魔法で煉瓦とか建材を作り出せないと、こんなところまで資材を運び込めないからな。
……それとも、地下まであるような建物が埋まっている?
だとしたら、かなり大きな建物だろう。
マイウリアの王宮並みの深さってことになる。
完全に埋まってしまってから、迷宮ができたというなら迷宮自体は新しそうだ。
緩やかに左に回っていく回廊は、間違いなく人が造ったような作りの煉瓦積だ。
やっぱり、何かの建物か遺跡と繋がってしまった迷宮か、ジョイダールの前にあったかもしれない町とか国の遺跡そのものが迷宮のようになったか。
ジョイダールの前……なんて、何処にも記録はないからあったかどうかも解らないが、ないという証明もされていない。
西のディエルティという国があった時代やその前に、もしかしたら知られていなくても少数民族の国くらいはあったのかもしれないからな。
どんどんと奥に入っていくと、天井が高くなっていく。
だが、なかなか広い場所には出ない。
……何か、聞こえた。
足早に音の聞こえた方へと進んでいく。
近付くにつれて嫌な予感が胸に広がっていく。
音は、水音だった。
うわー……俺が一番嫌いな水生魔獣かよぉーー……
あれ?
でも、水音がするってことは、流れている水ということだよな?
こんな内陸の地下で流れているのは、真水……だよな?
アーメルサスの魔魚がいた川は海の近くだったし、ペルウーテでも何処ででも『真水の川』には魔虫も魔獣もいたことはない。
恐る恐る水音の場所に『採光の方陣』を放って、身体を捻って覗き込む。
川じゃなくて、滝だ。
かなり上の方から流れ込んでいて、落差の激しい一本の滝が現れた。
俺の採光では上の方までは見えないが、遙か上の暗がりの中にぽつん、と光のような点が見えた。
随分と広々とした場所だ……部屋中が水飛沫でぐっしょりと濡れていて全ての壁が滝の中みたいに感じる。
あれは地上の灯りだろうか?
この水はあそこから落ちていると言うことか?
高さがあるせいか、滝は途中から霧散するように飛び散り、滝壺がなくて水が溜まってもいない。
壁や地面全体に水が流れていて、入口近くで隠れつつ眺めている俺にも飛沫がかかる。
部屋の隅々まで飛ばされた飛沫があちこちへと流れていっているのだろう、一方向の流れがないので川と言えるようなものもない。
所々の窪みに浅く溜まった水溜まりはあるものの、殆どの床の水は壁際の隅からどこかへと染み込んで消えていく。
水はどうやら真水だ。
だとしたら、魔獣は触れるのを嫌がるはず。
俺は外套の内側から『袖』を出して胴回りをきゅっと締め、外套の裾がばたつかないようにする。
頭覆いを被って保護眼鏡をすると、飛沫が舞う滝の部屋に入っていった。
凄い……土砂降りの雨の中を歩いているようだが、タクトの作ったこの外套には全く水が染み込まない。
保護眼鏡も水飛沫に曇ることもなく、隅々までよく見える。
あの魔獣の姿は何処にもないから、もしかしたら俺が見落とした分岐でもあったのかもしれない。
念のため『魔力鑑定』を使うと部屋の奥、滝の真裏辺りの岩壁に反応があった。
だが、なんだか動いている様子はなく『いる』のではなくて『ある』という感じだ。
もしや、ここを迷宮化させている『核』だろうか。
俺は高鳴る胸の鼓動をなるべく無視するように、じりじりと滝の真下へと寄っていった。
辿り着いたびしょびしょの岩壁に手をあてる。
間違いない、ここの奥に『魔力のある何か』がある。
俺は軽く触れながら、鑑定と探知で『弱そうな部分』を見つけ出して【裂石魔法】で岩壁を砕く。
中だけが脆くなるように、外まで破片を飛ばさないように調節できるようになったようだ。
段位が上がってきたのかもな、と少々悦に入りつつ、魔法を終わらせた後に思いっきり蹴ってみる。
ぼがっ、と鈍い音がしてぼっこりと人が通れるくらいの穴が開いた。
グギーーーギーッ!
突然の奇声と共に、背後からあの魔獣に飛びかかられた。
しまった、忘れていた!
こいつは『視認できる魔獣』だった!
俺を行かせまいとしているのかっ?
突然のことに躱しきれず、俺はそいつにのしかかられるようにして……自分が今し方開けた壁の穴に、倒れ込んだ。
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