第8話

「目的は何だ?」

「私はジャーナリストよ。真実を知って、記事にするのよ」

「俺の事を書くのか?」

「あなたの事というよりも、都市伝説『摩天楼の狼男』の記事を書くの。あくまでも都市伝説よ。岩田いわた定吉さだきちの話しなんて、誰も期待していないわよ。超ド田舎から来た一人の若者の話しは、書いてもつまらないわ」

「じゃあ、なんで俺につきまとうんだ?」

「あなたが苦しんでいるんじゃないかと思ったから。警察が嗅ぎまわっているけれど、あなたは逮捕されないわ。なぜなら、人を殺したのが犬だから。あなたが犬にあんな事をさせたわけじゃないんでしょ?」

「ああ、俺は何も……」


 岩田はそう言いながらも、苦しそうに顔を歪めた。


 入社してからずっと、冴島さえじまの指導が辛かった。営業は足で稼げ、夜も休むな、休日は休みじゃない。来る日も来る日も、仕事ばかりで休むことは許されなかった。成績も振るわず、何が悪いのかも分からず説教される。心も体も疲れ果てて、夜になるとビルの屋上で空を眺めていた。時々、つい遠吠えをしてしまう事があって、自分の感情に呼応した犬たちが、あの日、冴島を襲ってしまった。


「異変に気付いて、遠吠えを止めたが、もう冴島は虫の息だった。顔はめちゃくちゃで、内臓も飛び出していて、見るに堪えないものだった。俺は怖くなって逃げたんだ」

「そう……。冴島は気の毒だけれど、私も逃げ出すかもね。あなたを責められないわ」

「あんた、俺を警察に突き出さないのか?」

「突き出して何になるの? あなたに何の罪があるというの? もう事件は解決済みよ。警察は結論を出したわ。それを自ら覆したりはしない」

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