摩天楼の狼男

白兎

第1話

 天高く聳え立つ都会のビル群。そして空には大きな満月が見える。都会の喧騒から逃れるように、その満月を見上げる人々。しかし、そこに浮かび上がったシルエットは、人々に興奮を与えた。



「こんなひでぇ仏さんは、俺も初めて見た」

 五十嵐いがらし耕造こうぞうは、ブルーシートをめくり遺体の確認をした。獣の爪のような凶器で、原形を留めないほどに傷つけられていた。

「野犬の仕業ですかね?」

 須藤すとうまもるが言うと、

「お前はこの大都会で、野犬を見た事があるのか?」

 五十嵐に言われ、

「ないですね」

 と、須藤はさらっと答えた。


「狼男よ」

 そこに蓮宮はすみや玲子れいこが現れ、腕組みして高飛車に、ツンと上向きでそう言った。

「また、あなたですか? 関係者以外立ち入り禁止です。口出しも禁止です」

 須藤は強気にそう言ったが、

「待て。話しを聞かせてもらおうか?」

 五十嵐は須藤を制し、蓮宮に情報提供を求めた。

「あら、今回も私の協力が必要と言う事かしら?」

 蓮宮はそう言って、自信ありげな表情で五十嵐を見た。

「あんたも俺たちの情報が必要なんだろう?」

 五十嵐も負けずにそう言った。彼らの契約は成立したようだ。

「五十嵐さん!」

 須藤だけは、納得がいかない顔をしている。



 都市伝説『摩天楼の狼男』それが、蓮宮が今追っている、今回のテーマだった。


 満月の夜に、大都会のビルの屋上に狼男が現れると噂になっていた。しかし、人々が満月を見上げた時に、その姿を見たという情報が多いだけで、満月ではない夜にも目撃情報はあった。目撃者はスマホのカメラでその姿を保存していたが、どれも不鮮明で、それが狼男だと、断定はできない。しかし、目撃者たちは一様に言う。

「あれは狼男だ」と。

 蓮宮は狼男伝説について調べてみたが、日本ではあまり聞かない伝説だった。

それでも、調べていくうちに、ある村に狼男伝説のような話があった。


「その村へは、行ってみたのか?」

 五十嵐が聞くと、

「いいえ。これから行くつもりよ。また、私のボディガードとして、同行してくれるのかしら?」

 蓮宮は不敵な笑みを浮かべて言った。

「また、このパターンですか? 五十嵐さん、どうするんですか?」

 須藤が困った顔で言うと、

「もちろん行くさ。お前も一緒だ、須藤」

 五十嵐にそう言われ、須藤は肩を落として観念した。

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