物語シリーズ
古朗伍
第1話 鳳桃太郎
むかーし、むかし、あるところに猟師のお爺さんとブラックジョークが好きなお婆さんが居りました。
お爺さんは銃を持って山へ獲物を撃ちに、お婆さんはお爺さんが仕留めた獲物を川で解体しておりました。
「おう。休憩にするか」
「せやな」
銃と鉈を持って獣達と近接戦闘をしていたお爺さんは返り血を川で洗い、お婆さんはお茶をお爺さんに用意しました。
二人にとってはいつもの日常。人が生きるためには必要な行為であり、森の獣達が増えすぎない様な間引きも二人の役割なのです。
「ん?」
その時、川をどんぶらこ、どんぶらこと大きな桃が流れて来ました。
「……」
あまりに大きな桃。お爺さんは目の前をスーと流れていく桃に眼を向け、
「お茶淹れたで」
「おう」
スルーしてお婆さんの広げるお茶を受け取りにざぶざぶと川を出ました。
「じっさまや。今、デカイ桃が流れて来んかったか?」
「桃は好かん」
「ほっほっほ。そうじゃったな」
お爺さんは桃が嫌いでした。故にスルーしたのでした。
すると、更に上流からどんぶらこ、どんぶらこと桃が流れて来ました。
「また来たで」
「上流はどうなってるんじゃ?」
ずずーとお茶を啜るお婆さんは笑いますが、桃が嫌いなお爺さんはめんどくさそうに猟銃を手に取ります。
「ちょっと見てくる」
「別にええじゃろ」
「下流で迷惑になる。こんな事する阿呆を取っ捕まえて役人に引き渡す」
すると、桃はお爺さんとお婆さんの目の前で止まりました。
「じっさまや。あれ、どーなっとるんやろ?」
「……」
川の流れに逆らってお爺さんとお婆さんの目の前で止まり続ける桃に二人は各々の反応を見せます。
「下がっとれ」
するとお爺さんが一言行って、チャキ……と猟銃を桃へ向けます。
そして、発砲しました。銃声が山に響きます。桃は銃撃され穴が空きました。
「ナイスショット」
「まだ止まっとるな」
お爺さんは銃を置き、今度は鉈を持ってざぶざぶと川に入ると桃を縦に一刀両断。
二つに割れた桃の中には誰も居らず、形を崩しバラバラに流れて行きました。
「面倒ごとさせよってからに」
「おおい! じっさま! やべぇぞ! アホみたいにデカイ桃がどんどん流れてくる! 絶対遺伝子改良されてるヤツじゃ!」
「太郎! テメェ! 狩りサボって朝からどこに行ってやがった!」
そこへ、走って現れたのは太郎です。
都へ出稼ぎに出ている息子夫婦の代わりにお爺さんとお婆さんが世話をしているお孫さんなのでした。
「サボってた!」
「よーし、逃げ惑え。当たらなければ今日は見逃してやる!」
「桃太郎ってそんな話じゃねぇから!」
お爺さんはチャキ、と太郎へ銃を向けます。太郎は森の中へ、がさがさ。発砲、発砲、発砲――
「ほっほっほ。今日も平和じゃな」
と、お婆さんはそんなお爺さんと太郎のいつもの様子にずずーとお茶を啜った。
「おおーい、じっさま! ばっさま! 太郎兄! 大変じゃー!」
そこへ、村一番の美を持つ生娘のシズカが走って現れます。
お爺さんは太郎を仕留めるのに集中しているので代わりにお婆さんが対応しました。
「どした?」
「村の酒蔵が荒らされた!」
シズカは肩で息をしながら村で起こった盗難騒ぎを報告に来たのでした。
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