第30話「スキルの使い方、教えてあげる」


 翌日、いつも通り雫と一緒に登校して高校へ向かった。


 高校に着くと毎日恒例、あの2人から絡まれる。


 今日は小さい悪口を言われただけで前の様にパンを買ってこいだとか、妹を襲うだとか——そういうことをされたり、言われたりすることはなかった。


 最近は一切怯えることもなく怖く感じてしまうことがない。本当にレベル様様だな。


 しかしまぁ、普段ならもっとやってくるだろう2人が控えめだったのはなぜだろうか、ダル絡みの強さなら世界一なはずなのに今日は少しだけ驚きを隠せなかった。


 って、何を物足りなく感じてるんだか。ダル絡みが軽くなったんだからいいはずだろうに。


 うん、ドMと勘違いされるのも嫌だし、もっと減ってくれダル絡み。


 そんなこんなで授業をこなして、昼になると俺は約束していた屋上へ足を運ばせた。


 もちろん、待っているのは彼女——黒崎ツカサ。


 煌びやかな銀髪をはためかせ、エメラルドグリーン色の透き通った宝石のような瞳に、完璧なスタイルに大きな胸。


 見た目はもう、そこら辺のアイドルや女優、モデルも顔負けな程で美しく強いS級探索者だ。


 俺には到底追いつくことができないような、とにかくすごい人。


 そんな彼女は俺の姿に気づくと振り向いて手をこまねいた。


 手が子猫のようで少し可愛い。ちょっと嬉しそうな顔も見れてなんかいいな。


「っ……で!」


 多分「こっちおいで」って言っているんだろうけど、小風が吹いて聞こえない。


 あんなふうに静かにお呼ばれすると屋上で女の子の密会する浮気男子みたいでちょっとだけへんな気分だ。


 まぁ、密会っていう点ではあっているのかもしれないけどな。


「黒崎さんっ、待ちましたか?」

「ううん。待ってないわよ、大丈夫」

「そうですか……なら、よかったです」


 いつもより風が強くて、銀髪とスカートがはためいていた。パンツが見えるか見えないかの位置感でドギマギしていたがコントロールできているのか全く見えなかった。


「じゃあ、お弁当食べない?」

「はいっ」


 そうして、俺と黒崎さんはフェンスを背中に青空の下でお互いのお弁当を食べることにした。


「あの、妹が渡してって言っていたのでこれ」

「え、私の分、作ってくれたの?」

「はい。色々聞いたらいっつもコンビニだって言ってたからって……あ、でもむりしなくていいですからね?」

「いやいや、別に食べるわよっ。せっかく作ってくれたんだし、ありがたく頂戴しておくわ」


 袋から取り出そうとしていたコンビニのサンドイッチをババっと戻し、俺のふろしきから取り出した同じ大きさの弁当を手に取った。


 俺の弁当と全く同じ大きさなので少し心配だったが、その心配は不要だったことにすぐ気がついた。


「っ美味しい! この肉巻き牛蒡ごぼうとだし巻き卵美味しいわねっ」


 パクッと口に運ぶと黒崎さんは目を見開いて、口元を手で隠した。

 美味しいと言わんばかりの目が少し胸を熱くさせる。


「ですよねっ。あいつ、昔から料理ばっかりしてきたんで、そこら辺の料理人よりかは美味しいの作れるんですよ。何せ、俺の低収入でなんとかやりくりしてもらっていましたからねっ!」

「すごいけど……最後の、余計な話じゃない? 一気に悲しくなるんだけれど」

「あはははっ。自虐ネタ失敗ですね」

「自虐って……あれなら、私も生活費出してあげようかしら?」


 頭をぽりぽり掻いていると隣で美味しそうにご飯を頬張る黒崎さんは真剣な眼差しで俺を見つめてきた。


 いやいや、流石にそれはダメだろ。


 それじゃあ俺と黒崎さんがまるで雫の保護者みたいだ。

 うん、共働きする夫婦すぎる。


 ていうか、黒崎さんと俺じゃ張り合いがないだろう。


「さすがに、それは遠慮しておきます……」

「そ、そう?」


 何よりも、みっともないしな。

 俺の目を真面目に見つめてくる黒崎さんはちょっと乗り気なのがやや怖かった。


「大丈夫ですって、ほら、俺最近ちょっと強くなりましたし。このままEランク迷宮区ダンジョンも攻略しちゃってDランク迷宮区で荒稼ぎしちゃいますから!」

「私も手伝うわよ」

「え、黒崎さんも。いいんですか?」

「うん。最近、仕事もあんまりないしね」

「マジですか……それはちょっと、戦力大型補強すぎません?」

「大袈裟ね。でも、國田君からしても私がいた方が簡単に稼げるでしょ?」

「まぁ……そうですけど」


 なんだか、随分と積極的だな今日の黒崎さん。


「それに……國田君、あなたはスキルを使いこなせていないと思うの」

「えっ。スキルを使いこなせていない?」

「ほら、思わない? 私を助けてくれた時、Bランクの魔物に圧倒していたにも関わらず、他の魔物で本気を出せていなかったり、スキルが常時発動できなかったり、すぐに体が動かなかったりとか」


 黒崎さんの言うように確かにそれはあるかもしれない。


 日常的に頭を叩かれていたいことだってあるのに、ディザスターウルフとかに突進されてもさほど痛くなかったり、普通の魔物と戦う時と強力な力を持つ巨医的生ものと戦うので発揮できる力は確かに違っていた気がする。


 それに、最初の方に手に入れた『高速移動』だって使えていたかと言われればそんな感じはしない。


 それになにより、俺はスキルを常時発動していない。

 いや、黒崎さんの言いようだと発動と言うべきなのだろうか。


 周辺探知だって今も働いていてもおかしくないのに全然感じないし、知覚向上を今はまったくと言って機能していない。


 加えて、あの声が聞こえないのもおかしいはずだ。


 俺のオリジナルスキルは【神様の悪戯ワールドミスチーフ】なんだ。


 名前からしてふざけてるのは分かるし、正直なところ、このスキルにはどんな効果があるか理解できていない。だからあまり決めつけはできないけれど、もしもあの天の声がこのスキルから来るものなのなら常に聞こえていないとおかしいはずなのだ。


 ってことで聞こえてますか、天の声のお姉さん?



 ……。



 うん、やっぱり聞こえてこないな。なにかしら発動条件があるのか、それとも気まぐれなのか、それもはっきりさせなきゃならない。


 そう考えれば思うところはいくつもあった。


「確かに、あるにはあります」

「うん。國田君は凄く強いと思う。でもそれはスキルを使っている時だけで、実際には使いこなせていないと感じるわ」

「やっぱり、しっかり考えた方がいいですよね」

「そうね。だから、私も手伝ってあげるわ」

「え?」

「私もまだまだだからお互いに協力してほしいけれど、できる限りは努力する。だから、スキルの使い方、一緒に学ばない?」


 唐突なお誘いに少しびっくりした。


 しかし、相手があのS級探索者。こんなにもいい訓練相手がいるだろうか。


 否。

 私もまだまだとは言っているが絶対に逃しちゃいけない好機であるのは明らか。


 もちろん、答えはOKだ。


「——い、いいのなら。お願いします」

「えぇ、よろしくね」

「俺、今日も行きますけど……来ます?」

「いくわ」


 俺の問いにこくりと頷く黒崎さん。

 口角が上がっていて、どこか嬉しそうに見える。


 そんなこんなで予鈴が鳴り、教室に戻る俺の心境は最高だった。

 どうやら、今日から楽しくなりそうだ。







 ——————でも、なんで急に俺の事を「國田君」って呼ぶようになったんだろ。今まで「あなた」って不愛想に言っていたのに。

 

 




※黒崎さん視点


――一緒にいられるのは嬉しいのに、ちょっと複雑ね。

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