第5話 魔王ガンダールヴ、ロードロードに表情を与える
俺はレギンに運ばれてる。この怪力美少女は俺を肩に担いでいる。そして、通り道になんと鏡があり、俺は絶句。
そこに映るのはやはり、畳一畳サイズのコンクリートの塊。俺、人間辞めちゃったんだな。
なんだよこれ、せめてもっとかっこ良いのになりたかったぞ。
てくてくとレギンが歩いて着いたのは荘厳な雰囲気の大広間。
ドライアドやドワーフやオーガなど多様な種族がいる。
だが一番目立つのは、それらの種族に囲まれ奥の玉座に座り、マントを羽織り王冠を被った眼帯の男。木槌の様なものを幾つか体に付けている。男は低い声で俺に話した。
「お前が、道か」
莫大なプレッシャー、俺は思わず少し震える。
「だ、誰だ……貴方が、魔王ガンダールヴ様?」
相手は偉いだろうから気持ち敬語で話す。
ドワーフロードと聞いていたが、チビではなく三メートル程もある大男で威圧感が半端じゃない。
「貴様、名前はあるか? エルフ族のスレイブからはネームドではないと言われているが、お前の様な怪しい魔物は常識で測るべきではないと考えている」
俺は正直に名前を告げようと思う。俺もガンダールヴの名前知ってるし、教えていいだろう。
「俺の名前はロードロード・ドーロードだ」
意味は多分、道王・道路王か王道・道路王なんだろう。どっちか分からないけど。
俺は何気なく名乗った、なのに。
魔王ガンダールヴは刮目して俺を凝視。
「ロードロード・ドーロード、だと? 聞き覚えはないが、良い名前だな」
異世界で馴染みある名前をもらえたと思ったが、そうでも無いらしい。あの白く光る男、センス変わってるのかな? 名前を名付けるのは慣れてるとか言ったくせに。
「こちらも自己紹介しよう。余が北の魔王ガンダールヴである。ドワーフロードだ。魔王様と言ってくれれば良い」
相手は強そうだし、話を合わせた方が良さそうだな。俺は微々たる頷きをする。
「分かりました。……魔王様、私はなぜ連れてこられたのですか?」
俺の質問に答えたのはスレイブだった。
「そりゃお前が魔王様に刻印されていない魔物だからだろ。西にいる魔物は全て魔王様に魔力で刻印されているはずだった。お前にその痕が見られないからあたし達はここまで連れてきたんだぜ」
レギンは右手の甲にある幾何学模様的な印を俺に見せる。
周りを見れば、スレイブやドライアドの姉さんにも同様の印があった。
「そういうわけだ。我が国は現在、更に西に位置する人間の国……エルティア王国と戦争中だ。不測の事態に備え、怪しい魔物であるお前を余の元に連れてきてもらったというわけだ」
真剣な面持ちでショタ魔王は俺に話す。こいつ、やっぱイケメンだわ。
「僕悪い『道』じゃないですよ」
「道に悪いも良いもない。だがロードロード、お前のような魔物は初めてだ。……刻印をしても良いか?」
その場にいる全員が訝しげな顔で俺を見る。物珍しいものを見たとそいつらの顔は如実に語ってくれた。
「刻印ってされると情報が明らかにされたりするんですか? あと痛いですか? あと……消すことって出来ますか?」
タトゥーを入れて消せないとか嫌なんだよ。ヘナとかならまだしも。
魔王は俺に真顔で頷いた。
「消せるぞ。問題は無い。あとお前に……表情をつけたい。俺ならつけられるのだ」
消せるのは嬉しいが、表情をつけられる? 凄いな。俺の心はばれるだろうが、コミュニケーションするならそちらの方が好都合だろう。体に刻印されるなんて怖いけど、多分逆らえる空気じゃない。要求は、飲まざるを得ない。
「情報はな……年齢とか性別とか……魔物によるが健康状態とか明らかになる奴もいる。痛いという奴はあまりいないな」
「何が分かったか、教えてくれますか?」
「あぁ、構わない」
「じゃあ、大丈夫です。刻印を入れて下さい」
「うむ。では、やらせて貰おう」
魔王は腰に付けた袋から瓶を取り出し、中にあった絵の具のようなものを俺にかけた。
そして木槌で俺をガンガン叩いていく。それは意外なものだった、なぜなら――
「き、気持ち良い」
「ふふふ、肩叩きのようなものだからな」
魔王は俺に初めて笑顔を見せて、全体的に俺を叩いた。俺の体はなぜか、マッサージされたように全身温かくぽかぽかした感じがした。
レギンが俺に声をかける。
「道……じゃなくて、ロードロード。魔王様の木槌は叩いた対象の魔力を操作する。お前の中の魔力の乱れを整えたから体への害はないからな」
相変わらずの綺麗なハスキー声だった。あー、なんか体軽くなったわ。
魔王は俺に声をかけた。
「ロードロード。お前に表情が出来たぞ。なかなか分かり易い」
ドライアドが鏡を持って俺に見せる。
すると、確かに表情ができていた。俺は笑ったり鳴き真似をする。
墨のような刻印? が動いて表情になっているのがわかった。
俺はちょっと意識を動かしてみる。
「っきゃ」
ドライアド、だけでなく魔王も驚く。俺の目が一瞬で移動したのだ、俺の体……コンクリート上での移動なのだが。
魔王は俺に訝しげな顔を向けた。
「お前、視覚を一瞬で動かせるのか」
「どうやら、そうみたいです」
表情を作る墨は、俺の意識と連動しているらしい。
そして試してみたが、俺が顔を隠したい時は隠せるようだ。墨のようなものは俺の体内に移動できて、俺は表情を文字通り隠せる。
魔王は俺を見て、衝撃的発言を言う。
「おい、ロードロードの好きなものはパンツだと書いてあるぞ」
そんなことまで分かるのか……って冤罪だよこれ! プライバシーもないし!
レギンを除いて美少女魔族が絶句して俺を見てくる。酷い仕打ちを受けた。
「ま、魔王様。俺、パンツなんか求めてません」
「好きな素材は絹、とあるな」
「絹?」
一体、どういうことだ? 絹!?
「あぁ、お前はそれが好きだと」
「心当たりありません」
「何……」
魔王は俺に水晶を向ける。なんだ、あの水晶。
「本当に、心当たりないのか?」
「はい」
水晶を見た側近達は驚く。意味が分からない。
「そんな、魔王様の刻印情報が間違ってるなんて有り得ない!」「でも、嘘をついてる様子も無い」
魔王の側近達は騒ぎちらし、怪しむ目で俺を見る。
顎を触り、魔王は思い悩んでいる。
「どういうことだ? ……こやつの潜在性は凄いぞ……もしや五大魔王に匹敵する、いや凌ぐ」
俺に向けられた言葉。その言葉には俺も驚く。っと、魔王の傍に美少女……ドライアドだ。
緑色の髪の毛、蔓に絡まれた腕、長い睫毛が目立つ垂れ目が美しい。
俺がそう考えていると、魔王がその子に話しかける。
「リィフィ、ドライアドとしてお前はどう思う?」
あのドライアド……可愛い。ドライアドって確か、植物に関係する種族だったな。リィフィちゃん、レギンやスレイブに劣らない美少女だぜ!
これは目の保養をせざるを得ない……レギンにお願いするか。
「おい、レギン。降ろして貰っていいか?」
ふふふ。もう少しで絶景だ。
レギンは俺に気遣うような顔をして、
「あぁ、いいぜ。疲れたのか?」
「少しな」
本当は微塵も疲れていない。俺は降ろされ、ちらっとドライアドちゃんの股に視線を向ける。
勿論、表情は消している。
こ、これは……うひょおお!
ドライアドちゃんの緑色のパンツ、溜まらねえ。綺麗な刺繍がされてやがる。アラベスク模様がデザインされた豪華な刺繍。綺麗だな、質感がよく分かり、エロい!
へへへへ。いいな、この気分。コンクリートの塊に生まれるのも悪かないぜ。むしろ生前よりラッキースケベが多いじゃねえか。
【レベルアップです。レベルアップです】
小賢者の声が心に響く。
パンツ見る度、レベルアップしてるな。なんだこれ。まさか、ていうか普通に考えれば……俺のレベルか?
俺がそう思った瞬間、魔王が俺の方を見て言葉を発する。
「……仕方が無い。レギン、お前……街を案内してやれ」
「良いのですか? もしもこの者がスパイだったら、我々の情報を渡すことに」
魔王はレギンの言葉に頷き、
「大丈夫だろう。それに、そいつは他の魔王は勿論、エルティア王国のスパイの可能性もないと考えている」
とはいえ、俺は魔王軍に忠誠を誓ってはいないのだが。
「あとそいつは『道テイム』という技がある」
なんだ、それ。
「何ですか、それ」
「分からぬがテイム能力だろう。使わせて、どんなものか探ってきて欲しいのだ」
レギンや恭しく魔王に一礼する。俺の時とは態度がまるで別物である。
「分かりました」
俺はレギンに抱えられ、そのまま部屋の出口に連れ出されたのだった。
魔王が俺に語りかける。
「ロードロード。お前、良ければ魔王軍に入らないか?」
「考えときます」
勧誘されてしまった。レギンは「じゃ行ってきます」と言うと、一礼して扉を締める。
「俺の能力? そんなのあるのか」
「ふふふ。あたしも楽しみだ」
レギンは可愛らしくはにかむ。この子、本当に可愛いな。サキュバスなのに処女らしい。
こういう子と前世付き合いたかったわ。
「道。いや、ロードロード。その、お前スパイじゃなかったんだな」
レギンは俺を肩に担ぎながら俯いて話す。
「あたし、お前が敵国のスパイかもしれないって思って踏んじゃったよ。ごめんな」
「気にするな。身分証明できない俺にも問題があるんだから」
そういうとレギンは明るい笑顔を俺に向けた。この子、性格良いのかもしれない。
「許してくれてありがと。お前、どこから来たんだ? 他の魔王の支配地域じゃないのか?」
「えっと、その……」
「訳ありか? なら、聞いてごめんな」
異世界転生です。と正直に言ったらどうなるのか。この国は人間の国と戦争する魔物の国らしい。……大丈夫だろうか? 俺が『元人間の転生者』と話したら、敵と思われたりしないかな?
「分からないことあったら何でも聞けよ? あたしで知ってることなら教えるから」
弾けるような明るい笑顔。間違いなくレギン良い子だ。見たとこ、女子校生くらいの年齢のようだが、陽キャと言わざるを得ない。
そんな子に俺は担がれながら、魔王城の階段を今度は降りていくのだった。
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