ショートショート集

@nekonoko2

降旗甚三郎

「あ、これは降旗巡査部長殿、お疲れ様です」

 「んー、君、名前何て言ったっけ?」

 「佃島であります!」

 「あー、佃煮君ね、前も聞いたよね、ごめんね。で、現場は?」

 「あちらの洋館のダイニングキッチンであります!」

 「んー、わかった、じゃあね、夢の島君」

 「行っちゃった…相変わらずいい男だけどマイペースだなあ…、わざわざ鼻歌であの音楽止めてくれないかなあ」

 

 「降旗君、現場こっちだよ」

 「んー、古泉君、これがガイシャかい?ペチ」

 「いたっ、なぜおでこを叩く!私一応警部補だよ、君より偉いんだから」

 「君は顔悪いしでこハゲだし私の方が上でいいじゃないか」

 「顔とハゲは関係ないでしょ!」

 「で、状況は?」

 「私の方が偉いって言ってるのに…。ガイシャは吉育代35歳、演歌歌手だ。昔そこそこ売れたから名前ぐらい知ってるだろ?」

 「んー、私は演歌を聞かないからね、わからないなあ。もっぱらクラシックだからね」

 「へえ、どんなの聴くの?」

 「浪曲とか民謡」

 「それ古いだけでクラシックとは言わない!」

 「んー、それで?」

 「もういいや。で、ナイフで心臓一突き、ナイフは刺さったままになっていた。ナイフには吉さんの指紋しか無かったようだ。だがキッチンには二人分の食事が用意されていた、手は付けられていないが」

 「んー、分かりました」

 「何が?」

 「凶器はナイフ」

 「当たり前でしょ!で、あと、ガイシャは裸だったということだ」

「んー、見たんですかー、ンフフフフ、やらしい」

「相手は死体だよ!もう。死亡推定時刻は昨夜の21時から22時ぐらいだ。ガイシャの交友関係で怪しいと思われるのがシャンソン歌手の粟屋紀夫。どうも不倫関係にあったようだ。最近揉めていたようでね。まあこの辺が怪しいかな」

 「どの辺?」

 「だから粟屋紀夫だ!キョロキョロしないでくれよ」

 「なるほど…」

 「今、アリバイを洗っているところだ」

 「洗濯機で」

 「そういう意味じゃない!調べてるんだよ」

 「で、どんな感じ?」

 「粟屋は死亡推定時刻にはアリバイが無い。重要参考人だな」

 「何の参考にするの」

 「だから怪しいってことだよ!君はバカなのか?」

 「降旗です」

 「わかってるよ!面倒臭いなあ」

 「んー、臭うかなあ、1週間風呂入って無いんで」

 「その臭いじゃないけど本当に臭い!せめてシャワー浴びようよ」

 「んー、じゃあ粟屋さんのところいってきます」

 「話聞けよ!」


 「どうもー、ンフフフフフフ、私、降旗というものですがー」

 「降旗?どちら様?」

 「んー、だから降旗です」

 「だからなにもんだ!」

 「んー、何も揉んで無いです」

 「違うってば!どこから来たんだよ!」

 「んー、道通ってドア開けてきました」

 「いい加減にしろ!ん?その手帳は警察?」

 「はいー、粟屋紀夫さんですね」

 「そうだが。ああ、吉育代君の件かね」

 「はいー、あと…、この押し入れのアダルトビデオの件もー、えーと題名が…」

 「勝手に押し入れ開けるなあ!」

 「どんなジャンルのAVがお好きなんですか?ンフフフフ」

 「事件には関係ないだろ!」

 「これはSMものですねえ、男がムチで打たれているということはあなたはMなんですねえンフフフフ」

 「勝手に見るなあ!もうAVから離れろ!」

 「はいー、テレビから離れて見てますよ、目が悪くなるので」

 「だからそうじゃなくて!あ!…そうか、お前はいつもそうやってわざと相手を怒らせて情報を聞き出すんだな」

 「んー、なぜか知らないけど皆さんイライラするみたいでー、ンフフフフ」

 「天然か…いろんな意味で恐ろしい奴」

 「んー、粟屋さんはアリバイが無いということですが…」

 「その時間はちょうど散歩していたんだ」

 「首輪付けてですかあ?Mだから」

 「それはもういいだろ!」

 「じゃあスキップしながら」

 「しないよ!それだと危ない人だろ」

 「やはりあなたは危ない人だったんですねえンフフフフ」

 「まったく嚙み合わないよこの人!」

 「んー散歩の途中で誰かと会いましたか?」

 「特に知り合いとは会っていない」

 「んー、じゃあ証明してくれる人はいないんですねンフフフフ」

 「ああ、妻とは別居中だしな、一人暮らしでは証明のしようがないだろ」

 「んー、別居ですかー、ンフフフフ、理由は…奥さんもMだから?M同士ではプレイが出来ないと…」

 「だから関係ないっての!聞いただろ、死んだ吉君とは確かに付き合っていた。だが妻とはもうすぐ離婚の予定だったんだ。問題ないだろ?」

 「んー、吉育代さんはSだったということですかーンフフフフ」

 「話をいちいちSMに寄せるなあ!」

 「まあしかし…、粟屋さん…、あなた、吉さんともめていたらしいじゃないですかーンフフフフ」

 「あれは…、結婚式をするかしないかでちょっと食い違っただけだ。私はあまりしたくなかったんだが、吉君がどうしてもしたいと…」

 「ンフフフフ、結婚式したいと言ったら死体になっちゃった」

 「下らんギャグを言うなあ!」

 「んー、そんなに怒らなくてもー、Mのくせに」

 「Mは関係ないだろ!Mでも怒るんだ!」

 「ついに認めましたねえ」

 「は!わ、私が何を…」

 「Mだってことを」

 「どうでもいいだろうがあ!」

 

 「んー、皆さん、大分真相が見えてきましたーンフフフフ、事件の鍵がこの会話にはっきりと現れていたんですーンフフフフ、確かに粟屋さんはうそをついていませんでしたーンフフフフ、それでは解決編です、『左甚五郎』でしたーンフフフフ」

 「降旗違うんか!」


 「んー古泉君、真相が分かりました、ンフフフフ」

 「本当かね、じゃあ早速粟屋を署に…」

 「んー、連行してきましたーンフフフフ」

 「わ!首輪付けて四つん這いって!口にもボールが!なんで粟屋が…」

 「んー、粟屋さんは本当に散歩してたんですーンフフフフ、吉育代さんとね」

 「なんと、露出SMとは!」

 「そう、露出SMのあと、二人は裸でキッチンで食事をしようとしたんですーンフフフフ」

 「なぜ殺しを…」

 「んー、粟屋さんと吉さんは結婚式を挙げる挙げないでまた言い合ってたんですーンフフフフ」

 「では揉めてるとはそのことで…」

 「吉さんはこのナイフでケーキに入刀したいのと粟屋さんに迫りました、粟屋さんも最後は結婚式を認めたそうですーンフフフフ」

 「それではなんで…」

 「吉さんは喜び、『それではケーキ乳頭!入刀だけに』といいながらナイフの先で自分の乳首をいじったんですーンフフフフ」

 「もしかして吉育代ってバカなのか!」

 「下らないギャグが嫌いな粟屋さんは『なんでやねん!』と突っ込みを入れた時に不幸にもナイフが刺さりこのようなことにーンフフフフ」

 「くだらなすぎる結果だな。おい、粟屋のボール外してやれ。首輪はそのままでいいや。さて、粟屋さん。本当にこれが真相なんですか?」

 「はい…事故なんです…すいません…」

 「よし、取り敢えず署に連行しろ、そのままで」

 「あ、ありがとうござます、警部補さん。こんなご褒美をいただけるなんて…」

 「Mって気持ち悪いなあ。まあ、降旗君、よく解決したね」

 「でこハゲのくせに偉そうですねーンフフフフ、パチ」

 「だからでこパチ止めて!」

 「チャララチャララチャラララーン」

 「その音楽も止めて!」

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