第15話 『 LOVE YOU!』

15.


" 波紋 Ripple 15 "  



「お帰りなさい、今日もお疲れさま」


 「ふへぇ~。どうしたの?

 起きて待たなくていいのに。先に寝てていいんだぞ」


 「体調の良い日は、お帰りなさいって言いたいの」


 「ありがと、気持ちだけでよいよ、無理しないで!」


 ネクタイを外しながら夫がそんな風に言う。


 「私のせいで、最近ぜんぜん私たち会話もなくて、申し訳ないと

思ってるの」


 「何々? もうずっとこんな感じで過ごしてるし、俺はぜんぜん気にしてないから。君の病気が治ればまたいくらでも話できるんだしさ」


 そう言いながら夫はリビングへと向かう。


 あの夜のことを知らなければ、夫の言葉に感謝したのかもしれない

けれどあなたは気にしなくても、私が気になるんだってばぁ、って思いながら彼の言葉を白々しく聞いていた。


 さて、どうしようか。


 このまま引き下がって自分の寝室に向かうのか、彼の後を追って

リビングに向かい、本当に言いたい言葉を紡ぐのか。


 彼の様子を伺っていると、今宵も誰かさんと楽しい時間を過ごせたから

なのか? 機嫌がよさそうだ。


 そしてこれ以上は私とは話を続ける気もなさげな所作で、台所で水を口に

すると、もう誰にも用事はないといわんばかりて゛自分の部屋に入って

いきそうな気配が見て取れた。


 15-2.



 そんな彼の一連の所業を見ていると本当に私が寝ないで待っていたこと

なんて、彼にとって、どうでもいいことのように思えた。


 どうしたの? 起きて待たなくていいのに、と彼は私に言った。


 私が夫を疑ったりしているなんて、ちっとも考えてないかのように。

 いや、実際そうよね。私も問い詰めたりしてないし。


 だけど全くの潔白というわけでもない立場なのだから、少しは妻への

危機感があってもいいんじゃないの?


 もし私が女との別れ際の様子を見ていたことを夫が知っていたとしたら

遅くまで寝ずに夫を待っていた私に今夜彼はどんなふうに声をかけただろう?


 そうであったとしても、どうしたの? 起きて待たなくていいのに、と

同じ台詞を私に言っただろうか?  それとも反省する振りで、分かった

気をつけるよ、とでも言ってくれただろうか。


 

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