第13話 『 LOVE YOU!』

13.

" 波紋 Ripple 13 " 



 一進一退の日々。

 特別悪化してないことが唯一の救い。


 そんな日々の中、少し調子の良い日があった。

 そのせいかいつもより昼寝もたくさんできた。


 ずっと療養しながら考えていたこと・・を実行することにした。


 そう、夫が帰ってくるのを寝ないで待つ、ということ。

 まだまだ外は寒いし、夫が帰ってきたらホットなお茶を出して

あげたい。


 すぐにも支度できるよう、紅茶、コーヒー、ココア、緑茶、麦茶

と揃え、お湯を沸かして待った。


 なかなか帰宅しない夫をベッドのある寝室の窓辺で彼の姿を探しながら

待った。


 ちょうど5階のこの部屋から、マンションの駐車場から続いていて

出口から左右に別れる大きな道路が見えるのだ。


 その辺りを見ていると、徒歩や自転車であっても車であっても、

うちのマンシンに入って来る人物や乗り物が全部見える。


 車道としての大きな道路は、川を挟んでもうひとつ向こう側にもある。

 なんといっても私たちのマンション側を走っている道路の方が

交通量は圧倒的に多い。


 近隣の景色なども見ながら待っていると、知らない車がマンション近くの川沿いに停車した。

 

 そして夫らしき人物が助手席から降りてきたのが見えた。


 13-2.


 

 お酒飲んでて誰かに送ってもらった?

 すぐに運転席側のドアからも人が出てきたのが見てとれた。


 どうして? と思って見ていたら・・・。



 その女性は夫に軽くキスをし、二人は互いの手に触れながら別れを

惜しんでいるかのように離れた。


 いわゆる恋人同士のいい感じっていうやつ。


 じゃぁまたね、とでも言うかのように名残惜しそうに、その人物は

車に乗り込み走り去って行った。



 私は自分を責めた。


 今まで一度も夫の遅い帰りなんて待ったことなどなかったのに・・

こうして窓越しに彼の姿を探しながら待つなんてことなかったのに・・

し慣れないことをしたら、どう?  こんな場面を見せつけられて。


 あーっ、泣きたい気分。

 お茶なんて出せる気分じゃない。


 私はすぐに部屋の明かりを消した。

 そう、いつものように寝ている振りをするのだ。


 その夜、身体の温まる熱いお茶出し、という私のささやかな気遣いやら

心遣いが夫に届けられることはなかった。

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