第63話 熱中

「家着いたらすぐ通信な!」

「おう」


 達也が最近ワイクラを買ったということで、1年前からやっていた拓真が手伝うことになった。


 ワイクラとは『Winecraft』の略で、無限に広がる世界を探検しながら自分の作りたいものを作っていくというゲームだ。様々な要素が含まれており、とてつもなく奥が深いことで有名である。

 ただ、ワイン好きの人が勘違いして買ってしまうことがあるらしい。


『ブドウが見つかりません』

『ワインを飲みながらやるのが正解だと……』

『このゲームにポリフェノールのような恩恵おんけいはない』


 このようなレビューがいくつもあるが、さすがにジョークだと信じたい。


 *


 家に着いた拓真はゲーム機を起動させ、ワイクラを始めた。

 準備が整い、達也に電話をする。


「もしもし」

「おう、クマちゃん。もう準備できた?」

「うん」

「じゃあこっちのワールドに入ってきて」

「おけ」


 達也のワールドに拓真が参加した。


「よし、まず何からやればいい?」

「えっ、まだなんもやってないの?」

「もちろん!」

「おいおい……」

「先生に教えてもらったほうが早いだろ」

「先生と呼ばれるほどやってないけどね」

「まぁそんなことはいいから、早くやろーぜ」

「へいへい」


 2人は初期スポーン地点の近くで材料を集め始めた。


「とりあえず簡単な家を建てよう」

「えー、豪華なやつにしようよ」

「そういうのはもう少し後でいい」

「じゃあ簡単なものってどんな?」

「こんなの」


 拓真は豆腐のような四角い家を作って達也に見せた。


「これが家? ただの箱じゃん」

「だから簡単なのって言ったろ」

「それにしても簡単すぎない? もしかしてクマちゃん、ゲームの世界でも不器用なの?」

「もうやめるぞ?」

「冗談だって」

「とりあえず最初は安全に寝ることができればいいんだよ」

「ほーい」


 2人はとりあえずの家を建てることにしたが、結局拓真の作った見本の家は破壊され、達也がもう少しマシな家を建てた。


「やっぱりこっちのほうがいいな」

「そうだな」

「よし、次はどうする?」

「んー、探検する?」

「待ってました!」


 2人は食料と松明たいまつを準備して、近くの洞窟に入った。


「暗くてよく見えないな」

「そういう時にこれを使うんだよ」

「あー、なるほどね。マジで探検家になった気分だわ」

「もうちょっと奥まで行こう」

「いいけど、これ帰れるの?」

「大丈夫。左側にしか松明つけてないから、帰る時は右側にあるやつを辿たどればいい」

「おー、天才じゃん」

「最初に考えた人は本当に探検家だったりしてな」

「それはロマンだわ」


 2人は洞窟の奥深くまで到達した。


「ここで行き止まりだな」

「特に何もなかったね」

「まぁよくあることだよ」

「じゃあ一旦帰るか」

「クマちゃん、帰るまでが遠足です」

「はい」

「おーい、もうちょっと気の利いた返しはないのかよー」

「……最後まで油断せずに行こう」

「おー、探検家っぽい」

「めんど(笑)」


 2人は松明を頼りに地上に戻ってきた。


「いやー、明るい! 太陽は偉大だー」

「ふぅ、今日はここまでにする?」

「えー、もうちょっと……っておい! もうこんな時間!?」


 ワイクラの世界とは裏腹に、現実の空は真っ暗になっていた。


「気付けば3時間やってたな」

「やばいなこのゲーム。マジで時間忘れる」

「だよな」

「ちょっと危なくない? このゲームってやっても大丈夫なやつ?(笑)」

「合法だぞ」

「いやそれは分かってるけど、時間忘れるってなかなかじゃん」

「時間を忘れるほど熱中できるものは大切にしたほうがいい」

「どうして?」

「特に日本人は時間に縛られてる人が多いと思うから、知らず知らずのうちにストレス溜めてると思うんだよ」

「あー、確かに」

「だからこそ、時間を忘れて楽しめる何かが必要になる」

「その何かに熱中すればストレス発散になるってことか」

「そういうこと」

「はぁ、相変わらず大人だなー。いや、今回のはおじいちゃんか」

幼気いたいけな小5になんてこと言うんだ」

「そういう発言が小5じゃないんだよ(笑)」

「じゃあそういう発言をする小5ってことにしといて」

「了解(笑)」


 2人は「またな」と言って通信を切断した。

 その後、達也は「もう少しやるか」が長引き、プラス1時間やったところで母親に怒られた。


「いい加減にしなさい!」


 達也は時間を忘れるのもにしようと心に決めた。

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