第60話 自信

 ある日の昼休み。

 拓真は大輝だいき海誠かいせいとともに校庭でサッカーをしていた。

 いつもなら達也もいるが、今日は保健委員の仕事があるためパスとのこと。


「サッカーだけにパスとは上手いだろ?」


 達也はそう言っていたが、パスがあるスポーツなんていっぱいあるだろと3人からツッコミを受け、笑ってごまかしながら保健室に向かったのだった。


 *


 ボールの取り合いに飽きた3人はリフティング対決をしていた。


「48、49、あっ」

「最後触ったから50だな」

「でもすごいな」

「まぁこんなもんか」


 じゃんけんで負けた拓真は一番最初にリフティングを終えた。


「俺が手本を見せてやるよ」


 大輝はそう言ってオシャレにボールを蹴り上げ、リフティングを始めた。

 全く落ちる気配がないところを見ると、暇さえあればボールを蹴り続ける男はやはり違うと言える。


「98、99、100!」


 100回目に空高く蹴り上げられたボールは、そのまま大輝の足に吸い寄せられた。


「これぐらいでいいだろ」

「すげーな!」

「まだまだできそうだったな」

「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」

「「ボールが友達の人」」

「おめぇらなぁ……」

「んじゃ最後は俺だな!」


 大輝から何か言われる前に海誠がリフティングを始めた。

 海誠は特別サッカーが上手いわけではないため、ボールがいろんな方向に飛び続けている。


「3、うぉぉぉぉ4、だぁぁぁぁ5——」

「あれじゃ時間の問題だな」

「だな」


 ・・・・・・


「12、うわぁぁぁ13、がぁぁぁぁ14——」

「意外と続く(笑)」

「そういえば毎朝5キロ走る男だったな」


 体力に自信がある海誠はその後も少しずつ数を増やしていった。


「21、くぅぅぅぅぅ22、ぎぃぃぃぃやぁぁぁ23——」

「長すぎじゃね?」

「このままだと昼休み終わりそうだな」

「5時間目疲れたままじゃキツイだろうから終わらせるか」

「そうだな」

「おい海誠! 上見ろ! UFOだ!」

「UFO!? どこだ!?」

「あっ、ごめん飛行機だった」

「なんだよ、っておい! 落としちゃったじゃん!」

「わりぃわりぃ」

「邪魔されたからもう1回やるわ」

「「え?」」


 海誠が再びボールを蹴り上げようとした時、2人は慌てて止めに入った。


「もうやめとけって!」

「あんだけ動いて落ちないんだから海誠の勝ちでいいよ」

「そうそう!」

「あっ、そう? ならいいわ」


 海誠はボールを持って笑顔で2人の元へ走って来た。

 それを見た2人は心の底から安堵した。


「それにしても、あんだけ走ってよく疲れないな」

「当たり前だ。俺を誰だと思ってる」

「「海誠」」

「おい! なんか他にあるだろ」

「じゃあランナー」

「それで」

「普通だなー、まぁいっか」


 ——昼休みは残りわずか。


 3人は朝礼台の上で寝転び、休憩することにした。


「いやー、だねー」

「大輝、わざと言ってんだろ」

「バレた?」

「そこだけ声デカけりゃ誰だって気付くわ」

「はっはっはー。てかさっきのあの反応だけど、さすがにオーバーだろ」

「さっきの?」

「UFOだよ」

「あー、あれね。また見れるんだって思ったらちょっと嬉しくなってさ」

「ならあれからUFO見てないんだ?」

「そうなんだよ。毎日同じコース走ってんだけどなー」

「なんだよつまんねーな」

「仕方ねーだろ。俺だって呼べるなら呼びたいよ」

「やっぱり勘違いだったんじゃねーの?」


 大輝にそう言われた海誠は、反対しようとしたができなかった。


「実は、最近俺もそうじゃないかって思い始めたんだよなー」

「なんだよ」

「だってあれ以来見てないし、疲れてたんじゃないかって」

「そう簡単に見れないでしょ」

「そうだろうけどさー」

「それに、毎朝5キロも走れる体力があるんだから疲れはないだろ」

「確かに……」


 心が変わりかけていた海誠だったが、拓真の意見でなんとか留まった。

 しかし、まだ揺れているように感じた拓真は、勢いよく起き上がり、笑いながら言った。


「そんな悩むなんてらしくねーぞ。宇宙人に頭ん中でも操作されたか?」

「なわけねーだろ!(笑)」

「ならもっと自信持てよ」


 拓真の最後の一言で、海誠の心は晴れ上がった。


「……そうだな。やっぱりあれは本物だった! この目で見たからな!」

「その意気だよ」



 キーンコーンカーンコーン——



 予鈴が鳴り、3人は朝礼台から降りた。


「一番最後のやつが負けな」

「「はぁ?」」

「よーい、ドン!」


 海誠がいきなり勝負を仕掛けて走っていった。

 2人は顔を見合わせた後、すぐさま全速力で昇降口に向かった。

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