第43話 占い

 拓真は図書館を出た後、なるべく日陰がある道を選んで帰っていた。知らない道も暑さをしのぐためにはお構いなしだ。


(そっちは日陰が多そうだ)


 狭い路地を通るため、拓真は自転車を押しながら歩いた。

 そして路地の曲がり角が近づいた時、突然後ろから誰かに声を掛けられた。


「間瀬君」

「うわっ! ビックリしたー」

「何その幽霊でも見たような反応」

「こんなところでいきなり後ろから声掛けられたら誰だって驚くよ」

「まぁそうね(笑)」


 声を掛けてきたのは同じクラスの保坂ほさか柚穂ゆずほ。角度強めの前下がりボブで、黒目が大きく奥二重が特徴的。なんでも信じる素直な子だが、そのわりには我が強め。1学期に「見た目と中身どっちが一番大事か」の話をしていた6人の内の1人でもある。


「てかここで何してるの?」

「よくぞ聞いてくれた。実はそこの角を曲がったところで占いやってるんだけどやろうか迷ってて」

「へー」

「そこでちょうどいいところにあなたが現れたってわけ」

「へ?」

「さっ、一緒に行きましょ!」

「なんで俺も?」

「いいから!」

「あっ、おい!」


 拓真は柚穂に手を引かれて路地の角を曲がり、占い師の目の前に来た。


「あら、可愛いお二人さん。占って欲しいのはどちら?」


 彼女はロトと名乗る占い師。ひと昔前までテレビ出演もしていたらしいが、現在は路上で自由気ままに占いを続けている。推定年齢は50前後だが、見た目はマイナス15歳くらいのため、巷では美魔女と呼ばれている。ちなみに、よく当たると評判だ。


「私からお願いします」

(からって……後で俺にもやらせる気か?)

「分かりました。ではそちらの席におかけください」

「はい」

「何を占って欲しいですか?」

「最近運が悪いのでどうすれば良くなるか教えて欲しいです」

「なるほど。ではこの水晶玉をよーくご覧ください」


 ロトが紫色の水晶玉に手をかざし、柚穂はじっとそれを見ている。

 しばらくして、ロトは口を開いた。


「あなた、左足を怪我しているんじゃない?」

「えっ、どうしてそれを!?」

「そんなことより、怪我した理由を聞かせてもらえるかしら?」

「……はい。今朝ロトさんがここに来ると知って急いで準備していたら、タンスの角に小指をぶつけてしまったんです。本当に運悪いですよね」

(ただドジなだけじゃん)

「なるほど。私が見えたのはそれくらいだけど、他にどんなことがあったか教えてくださる?」

「はい。1週間くらい前、天気予報で雨が降るって言ってたので傘を持っていったんです。それで雨は降ったんですけど、傘を開いてみたら穴が空いてて……あとは昨日のことなんですけど、見たいテレビ番組に間に合うように走って帰って、角を曲がった時に人とぶつかっちゃって……もう何かいてるとしか思えません!」

(思い込みがすごいな)

「あらあら、可哀想に。でももう大丈夫。どうすればいいか分かったから」

「本当ですか!?」

「ええ」

「教えてください!」


 ロトは少し間を空けてから話し始めた。


「まずは落ち着くことね。あなたは1つのことに夢中になりやすいようだから、落ち着いて周りをよく見るようにするの」

「周りを……」

「あと、少々思い込みが強いところがあるから、何か思っても別の可能性を考えるようにするの。そうすればおのずと運が良くなっていくわ」

「私の性格まで当てるなんて……分かりました! ロトさんの言うとおりにしてみます!」

「これでいいかしら?」

「はい! ありがとうございました!」


 柚穂は満面の笑みで立ち上がり、拓真を見た。


「間瀬君も占ってもらいなよ」

「遠慮しとく」

「はぁ、もったいない」

「てか、もう帰っていい?」

「いいわよ」


 拓真は角に止めた自転車を押して帰ろうとしたが、念のため柚穂に道を聞くことにした。


「保坂さんってこの辺詳しい?」

「もち、ここから5分くらいのところに住んでるし」

「じゃあ最短で帰れる道教えてくれない?」

「おけ。私も帰るから途中まで一緒に行くわ」

「ありがとう」


 拓真は自転車を押しながら柚穂に着いて行った。


「ずっと謎だったんだけど、俺いる必要あった?」

「なんか悪いこと言われても誰かと一緒なら大丈夫って思えるじゃん」

「それはそのに悪いことを押し付けようとしてるんじゃない?」

「なんでそうなるのよ」

「この子と間違えたんだーって感じで」

「……」

「まぁどうでもいいけど」

「——間瀬君の言うとおりかも……」

「そんな暗い顔するなって。これから変わればいいんだから」

「……そうね」


 柚穂は占いを通して我を見直そうと思った。


「今日はありがと。ここ真っ直ぐ行けば学校に着くから」

「おう。じゃあまた学校で」

「じゃあ」


 拓真はペダルに足を乗せた。


(おかしい……今日は知り合いに会いすぎだ。なんかの呪いか?)


 自転車を漕ぎ始めてから数分後、拓真は今日会ったのが全員女子だったことに気付き、恐れおののいた。

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