元婚約者シンフォニー
腕を取られ、鉄格子が付いた貴族専用の牢屋に連れてこられた。鉄格子が付いているだけで部屋自体は質素だが悪くない。それは私が上級貴族の娘だからだろう。しかし両親に合わせてくれとお願いしても聞き入れて貰えない。どうしてこうなってしまったのだろう。
私は産まれる前からこの国の王太子であるユリウスの婚約者だった。幼い頃から王妃になるのだからと言われ育ってきた。今更、よその国の次男と結婚だなんて冗談じゃないわ。
ユリウスと出会ったのは5歳の頃、素直な性格で可愛らしい容姿のユリウスを見て私は一目で気に入った。少々ぼんやりとしている性格だったが、そんな所も私がお支えするのだと思っていた。しかし正式な婚約者になった事からユリウスはそんな私を疎ましく思っているようだった。
いつもユリウスの事を考え、ユリウスのためを思っての助言も彼にとっては口うるさい侍女でしかなかったのでしょう。高等部に上がった頃には学園では話しかけないようにと言われてしまった。私の思いは一方通行になった。
そんな時、アリアナが高等部に編入して来た。多少見栄えが良いだけの凡人たる凡人だった。そんなアリアナの事がユリウスにとっては新鮮だったのだろう。あっという間に恋に落ちた。アリアナは当然、身分の事から会うのを拒否したりユリウスを避けていた。またそれがユリウスの恋心に火を引けた。
アリアナに魅了などあるわけない事くらいわかっている。しかし、ユリウスの心を逃したくなった。王妃を死守した所でアリアナが第二夫人として城に入ってくるかもしれなかったのだ。第二夫人だって男爵の娘からしたら大出世だろう。
しかし、このままではこの私が子を産むだけの女になる。この私が夫に愛されず跡継ぎだけを産んで後はひとりでバカにされながら生きて行けと?そんなバカな事あってはならない。この私こそが最高に幸せな人生を送るに相応しい人間なのよ。
私の幸せそれは王に愛され、子に恵まれ、影ながら王を支え、歴代最高の王妃だったと歴史に名を刻む。これこそが私が望んだ小さな幸せなのだ。そのためにこの18年間頑張ってきたのではないか。この小さな幸せも私は望んではならないのか。
アリアナはユリウスを身分の高い男だとしか思っていないようだった。だからユリウスから強引に恋仲になる事も承諾したのだろう。最初はアリアナに王子である事を告げ身を引いてもらう事を考えていた。
しかし私はある日聞いてしまった。衝撃的な事実を!
私はその日、一人になりたくて噴水広場の隅にある萎びたガゼボにいた。普段は誰も使用などしない静かな場所だった。私はそこに静かに座っていただけだった。
そんな所に話声がした。ひとりはユリウスの取り巻きでもうひとりは学園では見ない大人の男性だった。男達は私に気が付かないようだった。それはそうだろう。いつもは何人もの取り巻きを連れている。私が動けば人だかりになるのだから。
しかし、あのアリアナの出現で悩んでいた事もあり一人になりたかった。影が薄くなるというポーションを侍女が護身用として持っていた。侍女に言い同じものをこっそりと買ってくるように指示を出した。
その作用で私はいつも誰にも見つからず静かにガゼボを使用出来ていた。男たちはそんな私の事など気が付かず、誰もいないと思って普通に話を始めた。内密に話をしたいのなら無音のポーションなり、魔術具があるはずなのだが、これは大変な失態だ。
「ユリウス様とアリアナ嬢はどうしている?」
どこぞの職員といういで立ちの男は、ユリウスの取り巻きのひとりに耳打ちに聞いている。
「今は談話室の個室で話をされています」
「そうか、変わりはないですかな」
「特には…」
「わかった」
「シンフォニー様はどうするのでしょうか」
心配そうな顔をしてその職員風の男に聞いた。
「どうするとは?」
「婚約者ですよ。まさかこのまま王子はアリアナ嬢とご結婚されるのですか?」
「我々は仕事をするればいいのです。いらない詮索は無用ですぞ」
「それはそうですが、私は納得出来ません。陛下はどうしてアリアナ嬢を気にしているのですか。もう何年も動向を追ってらっしゃる」
「…ここだけの話、アリアナ嬢こそが王妃に相応しいとお告げが出ていたそうだ。昔から陛下はアリアナ嬢を押していた。しかし、シンフォニー様側が納得しなかったと聞いている」
「本当ですか?」
「ここだけの話です。口外はしないように…」
「それはもちろんですが…私はシンフォニー様が不憫でなりません」
「陛下のお考えがある」
「それはそうですが…」
「あなたは王子の近くでお守りをして、見ている事を私に報告すればいいのです」
アリアナこそが王妃に相応しい?陛下が押している?お告げですって?
なんの話をしているの?!
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