第4話 大切なものとは……

「おい、ない! 」


「嘘でしょう。なくなってる」

 

 百合子も驚く。いつもあるはずの店は板壁で閉ざされていた。片隅に案内が寂しく残されている。


  ────閉店のご案内────


 永らくご愛顧頂きました檸檬の雫 れもん のしずくは……


 嘘だろう。閉店!心の中で叫び

 ショックで呆然と立ちすくんでいる。



「見て、見て、あれ」

 彼女の言葉に正気に戻ってゆく。


「どうした?」


「本店、やってるよ。覚えてるでしょう」


 目をこらすと、結びの挨拶に「公園通りの……」と書いてあるのに気づく。


「あたりまえやろ」


「浩介たら……。本店だけじゃなく、二年前の大切なことだよ」


 その言葉に初めて百合子との馴れ初めを思い出す。ケヤキ並木に囲まれる店舗は俺たちの出会いの場だ。レーズンサンドは彼女と話すきっかけを作ってくれる。二階のテラスに響くボサノバはいつしかふたりの恋のメロディとなっていた。

 

 俺たちは大切な物を失くした子供のごとく「いま、会いに行くぞ!」と叫び、駅ビルから慌てて飛び出す。本店まではケヤキ並木が続く。「何ごと?」かと振り返る姿を気にせず風を切り店を目指していた。


 

「ああ~。照明、ついてるよ」


「よかったあ」


 百合子からもホッとする声が届く。そこには希望の火が灯っていた。本店は女性客の声が飛び交っており、しばらく売場内を見渡すことにする。


「大きいの買っていく。良いでしょう」

「ああ、遅れたお詫びや」


「ここでも食べていきたい。これ、何よりのサプライズやろう」

 彼女の言葉にイタリアンは消えてゆく。


「おい、急にどうした。ごはんは?」


 けれど、「馴染みのラーメンで良い」という。そんなところにも彼女の無邪気さが覗いてみえる。


 ところが、百合子はブライダルギフトが並ぶケースに目を輝かせていた。その姿に気づいたのか店長がそっと声をかけてくれる。

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