催眠術ごっこ

kou

1ページ 石原と綾瀬

 玄関のドアが、外側に向かって開いた。

 狭い玄関に狭い廊下。

 昨今の住宅事情では珍しくもない間取り。

 そこに、気怠けだるい声を上げながら、一人の少年が自宅の玄関を開けて家へと入って行く。

 目元が釣り上がっており、どこか近寄り難い雰囲気を感じさせる顔立ちをしている。野良猫の様なその表情は、彼の生来の性格から来るものなのだろう。

 学生服の上から第二ボタンまでを外し、少し着崩した制服は、彼の通う学校の校則に違反しており、教師や両親からは度々注意を受けているのだが、彼は一向に改める気配はない。

 彼の名前は、石原悠人いしはらゆうと

 この春から高校二年生になる、至って普通の男子生徒だ。

 悠人がリビングに行くと、ソファーに座って本を読んでいる女の子の姿があった。

 彼女の名前は、綾瀬あやせ未歩みほと言う。小学4年生だ。

 悠人とは血の繋がっていない妹だ。

 普段から口数の少なく大人しい性格をしている。

 ネクラかと言えばそうではなく、クラスでも友達は多い方で人気者だったりする。

 腰の下まである長い黒髪をポニーテールにし、顔立ちも幼いながらも整っており、美少女と言って差し支えない程に可愛らしい。

 悠人の母親と、未歩の父親が結婚したことで、互いの連れ子だった二人は自動的に兄妹となった。

 だが、悠人は名字を変えたくないという意向を示したことで、《石原》という姓を名乗っていた。

 そんなことがあったのが、ほんの一ヶ月前。

 悠人と未歩はケンカをしたことはなかったが、突然できた兄と妹に戸惑いを隠せないのも無理もないことだった。

 兄の帰宅に気づいた妹だったが、読書を中断することはない。

 本を読みながら目もくれずに、おかえりとだけ呟くだけだった。

 愛想は無かった。

 しかし、それでも悠人は、むしろそんな妹の姿を可愛いと思っていた。

 何故なら悠人は、重度のシスコンになっていたからである。

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