第166話 解放

「ウィグル、頑張って!」

 レナンは懸命に魔封じを外そうとしているウィグルを応援する。


「なかなか、固くて」

 剣の柄で殴ったりするが、なかなか開かない。


 鉄を切るような芸当は、ウィグルには出来ない。


「やっぱり鍵がないと難しいかな」

 カミュと力を合わせてヴァージルから鍵を奪う方がいいかと思案する。


(しかし今の僕では足手まといの可能性が高い、誰かに援護を頼んだ方がいいか……)

 リオンが視線を移そうとしたその時、大きな手に肩を掴まれる。


「どいていろ」


「ギルナス?!」

 思いがけない助っ人にリオンは驚く。


「この戦いを終わらせる重要な役目はレナン王女でしょ。早く解放してあげましょ」

 イシスもいる。


 どうやら二人も転移魔法でこちらに来たようだ。


「止めろ!」

 ヴァージルの声を無視し、ギルナスはメイスを振り上げる。


「動くなよ」


「!!」

 レナンは腕を伸ばし、目を閉じて衝撃に備える。


 イシスが身体強化の魔法をレナンにかけることによって、衝撃は幾分か和らいだ。


 ガキンッと音を立てて腕輪は壊れ落ちる。


「ありがとうございます……」

 赤くなった腕もイシスが回復してくれる。


「いいのよ、もともとこちらが悪いのだし。本当にごめんなさい」

 そもそも悪いのはイシス達だ、お礼を言われる筋合いなどないし、寧ろ恨まれても仕方ない立場だ。


「こうして助けてくれて、一緒に戦を止めようとしてくれてるのだもの。イシス様はとても優しいわ」


「なっ?!」

 レナンの言葉にイシスの顔が赤くなる。


 優しいなんて今まで言われた事はない。


「そうです、イシス様は優しいのです。戦で傷つき、そして妻と子を失くして行き場を失った俺を励まして、側に置いてくれた恩人なのです。イシス様は本当は人を殺すなど好まない、心温かい人なのです」


「黙れ、ギルナス」

 耳まで赤くしたイシスが、わなわなと体を震わせている。


「イチャイチャしてる暇はないよ、ヴァージルがこちらに来る」

 カミュの攻撃を掻い潜り、ヴァージルの剣がこちらを向いた。


「その女を渡すものか!!」

 黒い雷がこちらに向かって突き進んでくる。


「皆、私の後ろへ!」

 レナンの体にいるミューズが手を翳す。


 皆を守るように張られた防御壁はとても大きく、厚い。


 ヴァージルの魔法などものともせずに完璧に防ぎきる。


「くそっ!」

 ヴァージルは舌打ちし、再度放とうとするがカミュの剣が迫ってくる。


 その剣を弾き、返す刃でカミュの腹部を薙いだ。しかしその攻撃は当たることなくカミュの体をすり抜ける。


「無駄だ、どんな攻撃も俺の体には当たらない」

 カミュの全身影に覆われていて、攻撃は全て影の中に消えていく。


「たかが雑兵の分際で!」

 ヴァージルは苛立たしさを露わにし、叫んだ。


「バルトロス! いつまで遊んでるんだ、さっさとこいつらを始末しろ!」

 名を呼ばれ振り返ればレナンが解放されている。そしてイシスやギルナスがその側にて武器を構え、争う姿勢を見せていた。


「貴様ら……!」

 バルトロスが転移魔法を用いて飛ぼうとしたが、それより早くロキが結界を張る。


「俺様を置いてどこへ行く気だ?」


「そんなに死にたいなら、先に始末してやる」

 ロキの周囲に無数の氷の刃が生み出される。


「さすがエリック王子。どれ程魔力があるんだ?」

 かなり消費させたと思ったのだが、まだまだ余力はあるようだ。


「だいぶ力は使わせてもらっている」


「まさか魂から力を奪っているのか」

 内包する魔力以上の力を使うとなれば、生命力を魔力に変えているという事だ。

 その魂に含まれる生命力がなくなれば、エリックを生き返らせることは出来なくなってしまう。


「リリュシーヌ、急げ!」

 ロキの叫びにリリュシーヌは即座に反応した。


「まずはミューズの体を返しなさい!」

 ルビアを捕えるために、リリュシーヌは結界を張る。


 ルビアが動けないくらいに狭く張ったそれは呼吸すらも苦しい。


「ぐ……ぅっ……」

 苦しそうな呻きに心が痛むが、すぐにレナンに声を掛ける。


「レナン王女、お願いします!」

 それを聞いてリオンがレナンの手に触れる。


「失礼します」


「は、はい」

 後でエリックに怒られるかもしれないが、今はそれでもいい。


(怒られてもいいから、早く戻ってきて)

 ルビアの元に転移すると、リリュシーヌが手を出す。


「もう一度私を受け入れて頂戴、あなたの力を引き出すから」


「は、はい!」

 リリュシーヌの手を握り、目を閉じる。


(集中、集中……)

 心の中で何度もその言葉を繰り返す。


 繋いだ手から温かな感覚が伝わってくる、リリュシーヌの魂がレナンの中に入ってきたのだ。


「これでようやく娘の体を取り返せるわね」

 レナンの体に移ったリリュシーヌはにっこりと笑みを浮かべた。

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