第155話 アドガルム国の攻防
アドガルム国の王都では、国王を討とうとするヴァルファル帝国の第一皇子アシュバンと、第二皇子シェルダムが軍勢を率いて攻め入ってきた。
「雑魚がうるさいな」
アシュバンは大ぶりな槍を振り回している。
その武器には黒い雷がまとわりついており、触れる者を焼き尽くし、パルス国の王太子ルアネドに迫る。
「雑魚でもなんでも生き残った方が勝者だ」
アシュバンの攻撃を受けないよう、ルアネドも自身の剣に魔力を流し、受け流していく。
ルアネドの方が魔力量が多く、アシュバンの魔法は伝わってこない。
周囲への被害がこれ以上生じないよう、アシュバンの攻撃を一手に引き受けた。
(時間を稼がねば、まだ逃げ切れていないものもいるだろう)
避難は始めていたとはいえ、帝国の急襲で全員逃げられたとは言い難かった。
大規模な転移魔法にて、帝国軍は一気に王都まで攻め入ってきた。
王都周囲に張っていた結界は多少の時間稼ぎにはなったものの、防ぎきることは出来ず、こうして侵入を許してしまう。
王城に張ってある結界はここよりも丈夫である為、いまだ破られてはいないが、だからといってこれ以上の侵入を許していいわけではない。
ルアネドもアシュバンもお互い決定打もないまま斬り合いが続く。
魔力がぶつかる度に火花も散り、他の者は近づくことも出来ない。
「アドガルム国の者は全員死ね。帝国は、負けない」
黒い帳がルアネドを包むように迫る。
「?!」
それはルアネドを包むと小さくなって消えた。
「……普通なら避けられないはずなのに」
悔しそうな顔をしながらアシュバンは後ろを振り向いた。
「そうだね。教わっていたおかげで助かった」
ルアネドは無傷だ。
咄嗟に転移魔法を使用し、無事だったのだ。
「一朝一夕で身に付くものではないだろうが」
この男はずっとパルスにいたはずだ、習う暇なかったはずだ。
「ロキ殿の出張授業を受けたんだ。スパルタで困ったよ」
ルアネドの瞳が光る。
地面が揺れ、アシュバンの足元付近に亀裂が走る。
揺れる大地のせいで跳ぶこともままならず、身動きが取れない。
「ちっ!」
アシュバンは裂ける大地に巻き込まれないよう、上空へと転移したが、幾人かの帝国兵が巻き込まれ、地中に消えていく。
「地の魔法か。さすが宝石の国の王子だな」
ルアネドの合図で地割れが閉じる。地面に食われた者達の断末魔が地中深くから聞こえ、やがて消えた。
「宗主国を守るために、属国として頑張らないといけないからね。お前はここで仕留める。王城までなんて行かせない」
自分の国を、そして命を助けてくれたこの国に、今こそ恩を返さねばいけないだろう。
そうして相対するうちに目の前が真っ赤に染まり、灼ける様な熱さを感じた。
目の前の信じられない光景に、ルアネドは呆然としてしまった。
「シェルダム殿はその程度か?」
余裕の笑みを浮かべるグウィエンに向かい、無数の雷が向かってくる。
「うるさい、この力馬鹿が! 消し炭にしてやろうじゃないか」
シェルダムが放つ黒い雷は地を這い、グウィエンに迫る。
「グウィエン殿下!」
フロイドが結界を張り、それらの攻撃を防ぐ。
「助かります、フロイド殿。さすがはミューズ王女の兄上」
グウィエンが両手に持った剣でシェルダムに迫る。
シェルダムは両手で剣を持ち、肉薄するグウィエンの剣を受けた。
(一撃が重い、そして双剣とは)
それぞれの剣も大きく、そして手数もあるグウィエンの攻撃は、躱すのも至難の業だ。
「ダミアンとならいい勝負が出来そうだな」
シェルダムはグウィエンの剣を弾くと、帝国兵に命令する。
「こいつらを射殺せ!仕留めた奴には褒美を取らすぞ」
建物の上には大勢の帝国兵が弓を構えていた。
「この光景は圧巻だな」
軽口を叩きながら、グウィエンはさすがに冷や汗を流す。
(数の上ではやはりあちらが上手だな)
シェスタもパルスもセラフィムも兵は引き連れてきてはいるものの、全軍を動かせるものではない。
自国の守りを薄くし過ぎないようにと人数を制限して連れてきたが、まさかこんなにも多いとは。
「フロイド殿、いざという時は自分の身を優先してくれ!」
剣を構え、グウィエンは駆け出した。
一か所にいるのは危険だ、早く頭を潰し、統制を失くすようにした方がいいとの判断だ。
「猪突猛進か。だが、ただの捨て身で俺に勝てるわけがなかろう」
降り注ぐ矢の中でもシェルダムは余裕の笑みで立っている。
グウィエンの剣を受けるようにと待ち構えていた。
「意外だ、逃げないのだな」
「帝国兵が俺を射抜くはずなかろう」
シェルダムは口の端を上げ、真っ向から迫るグウィエンに向けて魔法を放つ。
「俺の魔法で死ぬか、矢で貫かれて死ぬか、好きな方を選ぶといい」
時折グウィエンの防御壁を破った矢が体を翳める。
眼前には黒い雷が蜘蛛の巣のように張り巡らされていた。
「どちらも遠慮する。俺はこの戦いで武勲を上げ、褒美を得たいのだ」
グウィエンはニヤッと笑うと剣に炎を纏わせて、シェルダムの魔法を切り捨てる、
さすがに全てとはいかないが、だいぶ払う事は出来た。
上から降る矢も大分数を減らしている。
「グウィエン様、無茶しないでください!」
セトが剣を振り回し、弓兵を倒していた。
「あなたが倒れたら困るものが大勢いるのですからね」
セトが両手を広げると大量の水が現れる。
それらは周囲の者を押し流し、建物の上にいた兵達を次々と落としていく。
激流に翻弄され、次々と地面に叩きつけられるものが出た。
「役立たずが!」
苛立ちを隠さぬままにシェルダムは更に魔法を繰り出した。
「部下に恵まれておらず大変だな」
グウィエンは一気に距離を詰め、シェルダムに近寄る。
「くそっ」
シェルダムがグウィエンを焼き尽くすように魔法を放つが、グウィエンは腕が焼け焦げようが、剣を振るうのを止めなかった。グウィエンの剣がシェルダムの体に食い込み、赤い花弁がまき散らされる。
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