第138話 義兄弟

「大丈夫ですか、リオン様」


「キール!」

 ようやっと現れた騎士にホッとした。


「遅くなり申し訳ないです。トラブルがありまして」


「トラブル?」

 リオンは口元の血を拭い、キールを見る。


「えぇ。現在アドガルムに帝国の第一皇子と第二皇子が攻めてきております」


「?!」

 さすがに驚いてしまう。


(入れ違いか? でも街ではそのような兆候も話も聞かなかったが)

 情報が漏れる前にと攻め始めたのだろう、街にアドガルムの諜報員がいることくらい予想しているだろうから。


「状況は?」


「結界により今のところは無事ですが、街の方の結界は破られそうとの話です。そうなる前に討ち取るつもりです」

 向こうにもなかなかの戦力を送っているのか。

 皇子達の実力はどのようなものか。


「こいつを討ちましたら、俺はアドガルムに戻ろうかと思います。皆様はどうしますか?」


「兄様達はアドガルムが攻め入られていることを知っているのか?」


「エリック様には伝えたのですが、ティタン様にはまだなのです。連絡が取れなくて」


「それは心配だね」

 交戦中であっても通信は出来るはずだ。


 それも出来ないとなると結界などに阻まれてしまったか。


「ティタン兄様のところへ行くよ。負けるとは思わないが、心配だ」

 状況がわからないというのは不安だ。


 少しでも力になれればとリオンは国に戻ることはしないと伝える。


「サミュエルはどうする? 戻る?」

 シフの事もあり、そう聞くが、


「いえ、俺はリオン様と共に行きます。主君を敵地に置いて帰ってきたなどと知ったら、怒られてしまいますから」


「違いない」

 サミュエルの言葉を肯定するようにキールは笑う。


「ではリオン様はエリック様たちと共に皇帝を討って下さい。国は俺達が守りますので」

 キールは双剣を手に、マオとウィグルに迫るダミアンを見据える。


「さて俺はあの痴れ者を切り捨ててきます」







「キール!」


「遅くなりました、マオ様」

 栗色の騎士はダミアンを見て、訝し気な顔をする。


「腕もなく、よく頑張ったものだ。だがここで決着をつけてやる」


「はぁ? 急に現れて何をふざけた事を。頭がおかしいのか?」

 ダミアンはキールに向けて、剣を向ける。


 姿がブレると四方八方から斬撃が振ってくる。


「?!」

 キールは防御壁も張らず、避けることもせずに双剣で全てを捌き、受け流していく。


「帝国にはこのような面白い技を使う者が多いのだな」

 キールは攻撃を弾き飛ばし、隙をつきついてダミアンに近づいていく。


「ティタン様が戦ったものと似たような攻撃だな。両手があればもっと面白かったのに」

 キールはどんどんダミアンに近づいていく。


「ダミアンという者と戦えると期待したのだがな」


「!!」

 キールの言葉にダミアンが複雑な表情をし、転移をする。


「重い一撃だな」

 ダミアンの奇襲を予知し、キールは振り向いて剣を受け止める。


「ただ、背後を狙うのはもう止めた方がいい。わかりやすすぎる」


「うるさい!!」

 ダミアンは退いた。


 形勢が悪い。


 剣の実力もあるし、キールは今来たばかりで体力も有り余っている。


 非力なリオン達と違い、ダミアンの剣を真正面から受け止められるし、勘も働くようだ。


 当てられる気がしない。


(せめて腕があれば)

 両腕があればまだ善戦が出来たかもしれない。


 一時退却を考える。


「ダミアン、逃がさないよ」

 リオンが何かを地面に置いた。


「これは結界を張る魔道具だ。転移魔法で逃げようとしても無駄だよ」

 この中で魔法を使うのは可能だけれど、結界の外に出ることは出来ない。


 キールが来たならば、勝つのはこちらだ。


「この男がダミアン? 顔がまるで違うじゃないですか」

 キールは当然の言葉を放った。


「うるさい!」

 自分を貶す言葉が出ると思ったダミアンは再びキールへと切りかかる。


「そうか。惜しいな。万全の状態で戦ってみたかった」

 生粋の剣士であるキールは、ティタンと戦ったダミアンと剣を合わせることを楽しみにしていた。


「顔を隠していたのです。自信がないそうですが、その癖にサミュエルに向かって化け物と言ったです。許せません!」


「マオ様、ありがとうございます」

 サミュエルを庇う発言をしてくれるマオに感謝を述べる。


「サミュエルは俺の妹の婚約者だ。もうすぐ家族となる義弟を侮辱するとは、俺も許せない」


「そんな化け物と結婚だって?! お前の妹は頭がおかしいのか?」

 ダミアンの言葉にムッとする。


「容姿で人を判断するとは心が貧しいな。妹はサミュエルとの結婚を心待ちにしている、俺がこうして助力に来たのも、妹に言われたからだ。サミュエルに何かあったら、俺が妹に殺される」

 キールは双剣を手に、ダミアンと向かい合った。


「本気で結婚したいのか? そうか妹も不細工なんだな」

 何としても貶めたいのだろう。


「重ね重ね失礼な男だ。妹は、兄の俺の目から見ても美人だ」

 身内の欲目だろうと高を括る、がリオンの情報で言葉を失った。


「サミュエルの婚約者はとても綺麗な子だよ、なんたってミューズ義姉様の従妹だもの」

 ダミアンは身体を震わせた。


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