第30話 お披露目(女性サイド)

王女達も美しく着飾った姿で、お披露目の時を待つ。


一番先にアドガルムについて居たレナンは、お披露目の話をいち早く聞いていた。


なので最後に到着し、いまだに心の準備も出来ていないマオを気遣い、声を掛ける。


「大丈夫? 急な事で驚いたわよね」

親しみを込めた言葉遣いで声を掛け、警戒をもたれないように気を配る。


マオも人質としてこの国に来たはずだ、同じような立場の王女と今後仲良くしていきたい。


「驚いたです、だまされたです……」

既にぐったりと疲弊しているマオにミューズが回復魔法をかけてくれる。


体がほんわか温かくなり、疲労が和らいだ。


「凄い。そのような力を使えるのですね」

かけられたマオもだが、見ていたレナンも目を見開く。


「家族や親しい人以外には秘密なんです、内緒にしててくださいね」

しぃっとミューズは照れくさそうに人差し指を唇にあてた。


「ありがとなのです、ミューズ様」


「どういたしまして」

にこにこと眩しいくらいの笑顔で返された。


「レナン様もお気遣い嬉しいです」


「いいえ、わたくしは何の力もないし、寧ろそんな言葉を言われて申し訳ないわ」

レナンはしゅんとしてしまった。


(これが本物の王女様……)

眩しくて輝きすぎて、マオは自分との差をとても痛感した。


見た目も美しいが、内面もなんて綺麗なんだろう。


マオの言葉遣いも態度も諫めることもなく、広い心で受け入れ、損得なく気遣いと魔法を使ってくれる。


自国の驕り高ぶった王族とは違う女性たちに、マオは上に立つというものはこういう人たちなのだと理解した。


ひとり矮小な自分が恥ずかしい。


レナンは背が高いが、長い銀髪はダウンスタイルにして縦のスタイルを逆に強調していた。


ドレスもマーメイドスタイルで白を基調にしているので、洗練された潔白さを感じる、ウェディングドレスのような装いだ。


首元の緑色のネックレスにあわせ、他の装飾品もエメラルドで統一されている。


ミューズは小柄で細いのだが、ふくよかな胸をしていて女性らしい丸みをおびたスタイルをしている。


ふわりとしたデザインのドレスは紫色をしており、ブレスレットを含めた装飾品も同じ色にしている。


ふわふわの金の髪はアップにしていて、細い首元とうなじが艶めかしい。


幼さと大人の女性の色香と不思議なオッドアイで、人じゃないような際立つ魅力を放っていた。


「ぼくからしたらレナン様もミューズ様も、どちらも素晴らしい女性なのです。本物の王女様ってこんなに綺麗なんだなって思ったのです」

見た目もだが、にじみ出る優しさと気高さが凄く美しい。


侍女たちやマオに無意識に見せる気遣いは、人を見下すなんてしたこともないとわかる。


「マオ様だって王女様よ、とても可愛らしいわ」

黒髪黒目のマオは暑いシェスタにいたとは思えない肌の白さをしている。


蔑まされることを嫌がったマオは、部屋に引きこもる生活をしていたし、多分本当の父親がシェスタの国のものではないからというのもある。


青を基調としたドレスのところどころに銀糸で刺繍がされていて、肌の露出を嫌ったため、首元も胸元も腕も、黒のレースで包まれている。


あのあと首輪のようなチョーカーは抗議して指輪にし直してもらった、これなら手袋で隠せるから。


「様付けは、は止めてほしいです」

マオは自分の事情を二人に話す、本当の王女ではない事、教育を受けていないことなど。


「何てことなの」

レナンがこちらが心配するほど涙を流した。


「それは大変だったわね」

ミューズもハンカチで目元を押さえ、涙をこらえている。


慌てたのは侍女達だ。


ミューズはともかく、レナンのメイクが落ちてしまった。


急ぎ手直しに奔走する。


「なので、様付けは止めてほしいです。呼び捨てがいいのです」

マオの言葉に二人は頷く。


「これからは本当の家族のように甘えてもらえると嬉しいわ」

ミューズは優しくマオを抱きしめる。


花のように甘く優しい香りに、マオは安心した。


きっとこの先もこの人たちはマオを虐げないだろう、あの秘密さえ言わなければ。


マオもミューズの背に手を回す。


温かい触れ合い、忘れられないものがまた増えた。

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