第5話 第一王子とパルス国

 本日は顔合わせの日だ。


 謁見室にてエリックとパルス国王ヴィルヘルムがにこやかに対談をしている。


 エリックの後ろには従者と護衛騎士、護衛術師が付き添っていた。


「ではそろそろ娘達に会ってもらいましょう」

 ヴィルヘルムの合図で、しずしずと入場してくる。


「素敵な王女様方ですね」

 王女達は皆とてもキレイだった。


 優雅で気品溢れ、さすが宝石の国の王女……と思ったところで、二番目を歩いていた女性がドレスの裾を踏んで転んでしまう。


 さすがにエリックもあ然としてしまった。


「大丈夫?」

 第一王女がすかさず手を貸し、起こして上げてた。


 後ろの王女達は呆れている。


「すみません、お姉様」

 レナンは慌てて起き上がる。


「お見苦しいところを見せてしまい、すみません。よく言って聞かせますので」

 第一王女ヘルガがレナンに変わって謝罪をした。


「いえ、良いんですよ。緊張なさいますよね」

 エリックは優しくレナンに声を掛けた。


「レナンはいつもこうだ、恥ずかしい」

 レナンが返事をする前に、ヴィルヘルムがため息をついた。


 レナンはカァっと顔を赤くし、俯いて口を閉ざしてしまう。


 その様子を見て、逆にエリックはレナンに興味がわいた。





 皆との会話中もエリックは積極的にレナンに話を振るようにした。


「あなたはどう思います?」


「えっと、わたくしは…」

 その様子に他の王女達は面白くなさそうだが、エリックは動じない。






 様々な話題、質問を経て頃合いかとエリックは思った。


「最後に王女様方に質問です」


「何でしょう?」

 筆頭であるヘルガが言葉を返す。


「俺の妻になったとして、もし再び戦となったらどちらにつきますか?」


「?!」

 これは和平の為の婚姻だ。


 再びの戦などあってはならない。


「念の為ですよ。俺は妻の国を攻めようとは思いませんし、ヴィルヘルム殿も娘がいる国に攻め入ろうなんてしないと思いますが。ねぇ?」

 エリックは瞳の奥に鋭利さを携えて、王女達の顔を見た。


 明らかに試す質問だ。


 ヴィルヘルムも思う事はあるが、何も言わない。


「……私はエリック様に付き従います」

 ヘルガがまずは口を開く。


 それを皮切りに、次々に意見が集まる。


「私もです」


「わたくしも」


「勿論、夫に尽くします」

 追従するように他の王女も答えていった。


「レナン様は如何です?」


「わたくしは……わかりません」

 レナンは悩みつつもそう答えた。


「夫の味方をしてくれないというのですか?」

 エリックの問いにレナンは、ゆっくりと言葉を選んで話していく。


「状況次第です。あなたがもしも間違った選択をした場合、わたくしはあなたを止めなければならないと思います。民のためにも。それが王妃の責務かと思います」

 一人だけ全く違う解答。


 エリックは思わず、笑ってしまった。


「そうですね。間違ったならば止めなければなりませんね。俺も人間です、過ちを犯す可能性もある」


「そうなったらわたくしも一緒に謝りますので。謝るの得意ですから」


「面白い人だ」

 エリックの視線が移る。


「パルス国国王、ヴィルヘルム陛下」

 改めて声をかけた。


「決めました。レナン王女を俺の妻としてもらい受けます」


「お待ちください!」

 エリックの言葉に反応したのはヘルガだ。


「ヘルガ様、何を待てと? この婚姻は俺が選んでいいはずです。あなた方に決定権はないのですが」

 すでにエリックはレナンの手を取っていた。


 ヘルガは悔しそうにレナンを睨みつけている。


「なぜその子を選んだのですか!一番懐柔しやすそうだからって」


「懐柔? 違います。この中で一番頭がいいからですよ」

 さらりと言った言葉に王女達はざわめいた。


 ヴィルヘルムすらも目を見開いて、信じられないといった表情だ。



「こちらを婚約の証として預けます。迎えに来るまで待っていてくださいね」

 そっとレナンの首にネックレスを掛けた。


 金鎖に翡翠のついたもので、エリックをイメージさせる装飾品だ。






「ヴィルヘルム殿。好きに調べて構いませんが、必ずレナン王女の手元に戻してくださいね」

 エリックは余裕の笑みでそう言い放った。


「お待ち下さいエリック様。私は納得出来ませんわ」

 美しい顔を歪め、尚もヘルガは食い下がる。


 姉の初めて見る様子に、レナンも驚き戸惑っていた。


 そんなレナンを庇うようにエリックが前へと出る。


「あなたの納得は入りませんが、要らぬ禍根はレナン王女にとってもよくなさそうですね。聞くだけ聞いて上げましょう」

 エリックは目を細め、ヘルガの言葉を待つ。


「頭が良いというその子ですが、パルス国では誰もが知る落ちこぼれ王女です。先程も鈍臭く転びましたよね? とても頭が良いとは思いませんが」


「いや、レナン王女は頭がいいですよ。だってあなた方の嫌がらせに気づきつつも、波風立てないようにしているじゃないですか」


「えっ?」

 ヘルガはレナンを見た。


「レナン王女のドレスはやや長めに作られてましたね。これでは躓きやすいのも当たり前だ、転ぶことを想定した作りになっている」

 王女ともなればドレスはオーダーメイドのもののはず。


 こんな採寸ミスは普通あり得ない。


「誰かがそのように命じ、細工をしたのではないですか? 疑わしいのはヘルガ王女です。転ぶことが確定してたから、レナンの歩く軸と少しズレて歩いていたでしょう。巻き添えを食わぬようにと」


「私はそんな事しておりません」


「そうですか、そう言い張るなら結構ですよ。どちらにしろ俺はレナン王女が好ましいので、婚姻は覆しませんが。それでは失礼します、こう見えて忙しいので」

 エリックはレナンに微笑みかけるとその場を後にした。


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