第11話 スタンピード

 アタイが食べ歩きで麓の町に通うようになって1ヶ月経ったある日。その日もアタイはいつも通り朝一から町に行って食べ歩きをしていた。


「う~ん。このタレがたまらないな。」


 その時、アタイは冒険者の店の酒場で肉丼フィア盛りを食べていた。元々はスペシャル盛りだったが、アタイ以外完食できた人が出なかったんでフィア盛りと名前を変えたらしい。今は辛うじてアタイ以外の大食いが完食できる量をスペシャル盛りというようになった。そんなフィア盛りを食べていると、店の扉が勢いよく開いた。


「おい!ヤバイことになった!スタンピードだ!」


 慌てて入ってきた男のその言葉に店中が大騒ぎになった。


「スタンピードって。規模は?」

「数千はいるみたいだ。場合によっては万を超える。」

「マジかよ。子爵様にも伝えろ。騎士団と協力して戦わないと、冒険者だけじゃ荷が勝ちすぎる。」

「わかった!行ってくる!」


 スタンピードってなんだろう?


「おっちゃん。スタンピードってなんだ?」

「お、フィアちゃんか。簡単に言ったらモンスターの軍団がこの町に向かってきているんだ。さすがに万を超えるとかなり厳しいな。」

「そうなのか。」


 へー、1万を超えるモンスターか。ま、大したことないな。


「ま、アタイは肉丼を堪能するだけだな。」


 アタイは平然と肉丼を食っていたんだが。周りが騒がしい。冒険者の店の受付の人がなにやら檄を飛ばしたり、鎧姿の衛兵が冒険者の店に来てなにやら伝えた。


「おい、フィアちゃん。ここは危ないから逃げてくれ。赤竜神様が何とかしてくれるならまだしも、一昔前の飢饉のとき以降交流をしていないから動いてくれるかはわからねぇ。一応うちの腕利き冒険者が赤竜神様がいると言われている山に向かったが、どうなるか……。」


 赤竜神?ああ、アタイのことか。今住み処に向かってもいないぞ。ここにいるからな。


「もうすでに町の門から見える位置まで来ている。一応騎士団と冒険者で対峙して逃げる時間を稼ぐつもりだが……。被害を減らすため早急に逃げてくれないか。」

「難しいのか?」

「……はっきり言って無理だろうな。騎士団も1000しかいないし、冒険者でも対応できる冒険者は多くないからな。」

「そうか……。で、モンスターはどっちから来てるんだ?」

「ああ、向こうからだ。逃げるなら反対に向かえ、いいな。」

「わかった、とりあえずこれ肉丼を食べきってから動くよ。」

「……そんな悠長な場合じゃないだろ!さっさと行け!そいつは持っていってもいいから。」


 そう言われてアタイは冒険者の店の酒場から追いたてられた。こんなんじゃ落ち着いて食べられないな。……仕方ない、当面旨いものにありつけなくなるかもしれないけど、やるか。





「おい、準備はどうだ?」


 1万を超えるモンスターの一団を前に、1500人ほどの騎士団と冒険者の混成軍が陣形を整えようとしていた。その中にはこのボルスの町を中心としたこの地域を治めるボルストラ子爵や、冒険者の店の店主もいた。町を上げての防衛戦である。


「レディック、なんとかなりそうか?」

「子爵様、難しいでしょうな。ここにいる1500名討死しても半数は抜けられるでしょう。そうするとボルスの町の防壁では……。」

「そうか……。少しでもモンスターを道連れにして防壁でなんとかなることを祈るしかないか。」


 子爵は自慢の髭を触りながら少し思案し、混成軍の方を向く。


「諸君。敵は強大である。だが、後ろにいる家族をはじめとする民を守るため、玉砕する覚悟でモンスターたちを一匹でも道連れするぞ!」

「「「「おおーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」

「確かに多いから町に被害が出そうだね。もぐもぐ。」

「……は?」


 演説をしていた子爵と冒険者の店の店主の間に、いつのまにか肉丼を持った赤い髪の少女が立っていた。





「……ふぃ、フィアさん。なんでこんなところに。」

「お、グローケンじゃないか。久しぶりだな。ぱくぱく。」

「お久しぶりです――――って、なにをしてるんですか!」

「ああ、肉丼を食べてる。もぐもぐ。」

「いや、それは見たらわかりますけど。そうじゃなくて、ここは戦場ですよ。早く逃げてください。」


 肉丼を食べ続けるアタイにツッコミを入れつつ逃げるように促すグローケン。だけどなぁ。


「むしゃむしゃ、ごくん。グローケン、こいつを冒険者の店の酒場に返してきてくれ。頼むぞ。」

「え、あ、フィアさん!」


 アタイはグローケンに食器を渡すと、モンスターの一団に向かって歩き出す。


「旨い飯が二度と食べれんようになるのは勘弁だからな。しばらく食べれんよりはましだ。いくぞ。」


 アタイは十分に混成軍から離れたあと、人化を解き、咆哮を上げた。


「ふむ。ちと町まで飯を食いに来ていて間引き損なっていたか……。ま、ここで帳尻合わせるとしよう。」


 アタイはそう呟くと、大きく息を吸い込み、炎のブレスをモンスターの一団に吹く。3割は消し炭になったか。

 いきなりドラゴンのブレスを受けたモンスターたちはパニックになる。そこへアタイは突っ込み、蹂躙していく。爪や牙で切り裂き、ブレスで焼きつくす。




 オークやゴブリン、狼などのモンスターの軍団は赤き竜によって、殲滅されるのだった。

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