第9話 肉丼スペシャル盛り大食い選手権
「何にする?」
「ああ、何か旨いもん食わせてくれ。」
「そうだな……、お任せでいいか?」
「ああ構わない。」
「よっしゃちょっと待っておけ。」
だんご鼻の店長?がそう言うと、何かを作り始めた。しばらく待っていると、大きな椀に肉がうずたかく積み上げられたものがカウンターに置かれた。
「肉丼スペシャル盛りだ。嬢ちゃんならこれくらい食べれるだろ。」
「ああ、ありがとう。旨そうだ。」
その肉の塊はゆうに30㎝を超える高さがあった。
「おい、あれは……。」
「まじか。滅多に出ねぇぞ。」
「チャレンジャーは誰だ?」
「誰が食うん……ああ、あの串焼き大食いの嬢ちゃんか。なるほどな……。」
うん?アタイのことを見る人が増えたようだな。
「こいつを30分食べきれば食事代はタダだ。それに、賞金だって出る。どうだ、試してみるか?」
「ああ、それは構わんが、さっきからアタイを見る視線が増えているんだが。」
「そいつは、この肉丼スペシャル盛りを時間内に食べきったのはいないからな、それでだろう。」
へー、でも……。
「この程度を完食できないのか?」
アタイの言葉に酒場にいる全員がどよめく。
「お、おう、どうした……。」
「くっくっくっ。串焼きをあれだけの量平らげる嬢ちゃんなら問題ないだろうが、一般人じゃあまず無理だからな。冒険者ですら時間内に完食できるヤツはいねえ。まあ、完食できるヤツがゴロゴロいたんじゃあ売り上げになんねぇが、完食できるヤツが一人でもいねえと注文する
「お、おう。なんかわからんがわかった。じゃあ食べさせてもらおう。」
「ちょっと待て。一応ルール説明だ。この砂時計の砂が落ちきるまでに食べきること。以上だ。」
そう言って店長は砂時計を取り出した。
「じゃあ行くぞ。……よーい、スタート。」
店長は砂時計をひっくり返しながら開始の合図を出した。
「では、……はふはふはふはふ――――。」
アタイは肉丼を食べ始めた。お、これは……。
「これは旨いな。前に食べた串焼きに近いが、もっとトロッとした甘辛いタレが満遍なくかかって、肉もサクサクとした食感で噛むと肉汁が出てきてそれがタレと混ざり合って――――たまらん。それと、この脂身の部分の甘さがちょい辛のタレが引き立ててたまらないな。」
「ああ、オーク肉の一番脂の乗った旨いところを使ったからな。その甘辛いタレは下のライスとも合うぞ。」
「そうなのか。どれ。」
アタイは積み重なった肉を食べていき椀の中のライスにたどり着いた。そしてそのライスを食べてみた。
「お、これは……。」
「嬢ちゃん!どうした!!」
観客の一人から心配そうな声が上がる。
「……これは、このライスの脂身とはまた違った甘味がこの甘辛いタレと噛み合い、噛めば噛むほどライスの味が引き立つ。それと肉と合わせて食べるとライスとタレ、肉と脂身の複雑に絡み合った旨さの
アタイはそう言い、残った肉とライスをかきこんでいく。
「……おい、店長。」
「なんだ?」
「おかわりだっ!!」
アタイは空っぽになった椀を店長につき出した。店長はキョトンとした顔になる。
「……ぶっ!ぶわっはっはっ。まさかおかわりを所望されるとはな。しかも所要時間半分でだ。いいぞ、もう1杯作ってやろう。だが、おまえさんは殿堂入りだ。こいつを注文しても賞金は出さねぇ。こっちが破産してしまわぁ。」
「そうだな、次からは正規の金額で食おう。じゃないとこの店がつぶれてしまうだろ。」
「ああ、助かるよ嬢ちゃん。そう言えば嬢ちゃんの名前は?」
「ん、アタイはフィアだ。それがどうした?」
「完食した人物として名前を掲示させてもらいたい。完食したものがいると
「……なるほど、さすが商人だな。」
「すでにスペシャル盛りの注文が入ってるしな。それに肉丼の普通盛りも一気に注文が入った。もうそれだけで儲けが出てる。」
アタイは店長の言葉に辺りを見回すと、確かに小振りだが肉丼が運ばれているテーブルが多い。
「フィアの感想を聞いて食べてみたくなったヤツが多くてな。その礼を含めて2杯目は俺の奢りだ。あと、こいつが賞金、金貨1枚だ。」
「おう、ありがとう。」
「で、こっちが2杯目のスペシャル盛りだ。ゆっくり味わってくれ。」
「ああ、食べさせてもらおう。」
こうして、アタイは肉丼を腹一杯食べることができた。
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