第3幕 マッスルキングダム、略してマッキン
「へぇー、これがマッスルキングダム……なのね……」
初めは異国の地へ旅行をしにきたようなルンルン気分の三人だったが(おい、筋肉バカ二人がやられたのを忘れたのではなかろうな)、だんだんとその顔が曇っていく。
それもそのはず。
街は、レンガ造りの家が規則正しく立ち並んでいるように見えたが、それはレンガではなく鉄アレイだったし、遠くに国王の住むお城が見えたが、よく見ると外観がぶら下がり健康器のようだった。もう何から何までトレーニング器具に関係するようなものばかりが溢れていて、マッチョはもうお腹一杯になったのだった。
さらにびっくりしたのはマッキンの住人はみんなガリガリに痩せ細っており、顔に生気が感じられなかった。てっきりみんなちびマッチョ君のような人々ばかりだと思っていたのに……どうやら彼が言っていた「ガリガリーズにみんなやられてしまった」というのは本当のようだった。
「それで……
真弥が周囲をキョロキョロと眺めながら言った。
「それが、二人はガリガリーズに捕まってマッチョキャッスルに連れて行かれたんだ」
「マッチョキャッスルって、あの?」
三人が巨大なぶら下がり健康器の方を見ると、ちびマッチョ君はコクリとうなづいた。
「もともとはキングマッチョ……王様のお城だったんだけど、ガリガリーズどもに乗っ取られてしまって……今ではガリガリーズのボス、ヒーヨワーが占拠しているんだ」
そういうと、ちびマッチョ君は拳を握って力を込めた。
「僕に……僕にもっと筋肉があったらこんなことにはならなかったんだ!」
「ちびマッチョ君……」
ウー! ウー! ウー! ウー!
悠花が悔しがるちびマッチョ君を見つめていると、突然どこからか警報が鳴り響いた。そして道の向こう側からガリガリな兵隊――ガリガリーズたちが走ってやってきた。
「マッチョ発見! マッチョ発見! 直ちに捕獲せよ! 直ちに捕獲せよ!」
道に設置されているスピーカーから恐ろしい言葉が聞こえてきた。もしかして、わたしたちもマッチョ認定されているっていうの!? 真弥が心配している箇所がどうにも違う気がしたが、ちびマッチョ君は冷静に三人に声をかける。
「こっちです! マチョキャ(マッチョキャッスルの略)への地下道があるんです!」
ちびマッチョ君を先頭に、三人は路地を曲がり、地下道へと急いだ。
ガリガリーズたちはガリガリなので当然体力があるはずもなく、少し走っただけではあはあいって息を切らしてしまい、それ以上追いかけることができなかった。
☆★☆☆★☆☆★☆
一方こちらはマチョキャ内のどこかにある牢獄。その中にはガリガリになってしまった蝶介と秀雄の姿があった。二人ともつい数時間前までTシャツがパンパンになるくらいの筋肉があったのに、今はそのシャツがぶかぶかになってしまうほど腕も足も胴体も細くなってしまっていた。
蝶介は牢獄の隅で反省していた。自分の筋肉を過信しすぎていたのだ。ちびマッチョ君と一緒にマッスルキングダムに到着するとすぐに、警報と共にガリガリーズがやってきた。
そのあまりのひ弱さに、楽に勝てる相手だと思い込んでしまったのだ。実際、蝶介のパンチ一発でガリガリーズは面白いように倒れていき、勝負はついたかのように思われた。しかし、そこで蝶介の死角にいたガリガリーズから謎の魔法をかけられてしまい、みるみる筋肉がなくなっていったのである。
攻撃する力も、抵抗する力も失ってしまった蝶介と秀雄はガリガリーズに捕獲され、ここへと閉じ込められたのだ。
「すまねぇ、秀雄」
「何言ってるんですか、アニキ! 超天才のこの僕が脱出方法を考えていますから、ご安心ください!」
学校一の頭脳を誇る超天才、海原秀雄は頭の中で様々なシミュレートを行ってみた。しかし、そのどれもがガリガリの状態だとうまくいかないのであった。
持っているコンパクトで魔法少女に変身するというのも試してみた。しかし、体が痩せ細り、心が不安定になっている今、変身のための言葉を唱えても、姿が変わることはなかった。心身ともに健康であってこその魔法少女、なのである。
「ちくしょう、もう一回一から筋トレして体を鍛え直すしかねぇか」
「……時間はかかりますが、それが一番の近道かもしれないっすね、アニキ。マッチョの道も一歩からとよく言いますし……」
二人がそんな会話をして、腕立て伏せをしようとしたとき、
「ふはははは、いくら筋トレをしたところで無駄だ!」
コツコツという甲高い足音と共に、一人のガリガリの男性が現れたのだった。
「誰だ!」
「私がこのマチョキャ……いや、ガリキャ(注:ガリガリキャッスルの略語らしい)。そして、マッキン……いや、ガリキン(注:ガリガリキングダムの略語らしい)を治めるキング。ヒーヨワーである!」
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