第13話 「人間関係がややこしすぎて頭が追いつきません」

校長室を出て、エミリと別れたあと。

玄関先に行くと、案の定というか予想通りというか――


タカシとナナミがいた。


二人とも、

「待ってたぞ」

というより、

「待たされてたんですけど?」

という顔。


でも一応、私を見つけると笑顔は作ってくれた。

作っては、くれた。


「遅かったじゃん」

「校長、長話だったのか?」


私は歩きながら、校長室での一部始終をかいつまんで説明する。

文化祭、街、定年、熱意、未来――


うん、説明しながら自分でも思う。

重い。高校生が背負うにはだいぶ重い。


でも、この前の件――

つまり人間関係ゴタゴタ案件――

それをできるだけ早く解決したい気持ちもあった。


それに、この二人とはちゃんと腹を割って話しておく必要がある。


話し終えたあと、三人の間に沈黙が落ちた。


……重い沈黙だ。


「あのさ……」


先に口を開いたのはナナミだった。


「野々花。話を蒸し返すようだけど、もう一回聞くね?」


嫌な予感しかしない。


「あんたさ、ユウスケのこと、ホントはどう思ってんの?」


来た。

来てしまった。


「ユウスケ?」


私はとりあえず聞き返す。

聞き返すしかない。


そう。

この場にいない、もう一人のキーパーソン。

この三人と“野々花”の関係がこじれた原因――それがユウスケ。


「それにさぁ」


ナナミは畳みかけてくる。


「他の女子から聞いたんだけど、あんたシンジに告られたんだって?」


……あ。


シンジ。

日記によく出てきた名前。


ただし、

「告られた」

「そのあと突然振られた」

以上の情報がほぼない。


首をかしげる私を見て、ナナミは深いため息をついた。


「だよね……あんた、記憶ないんだもんね」

「記憶ないだけじゃねえぞ」


タカシが割り込む。


「こいつ、中身まで変わっちまった感じだしな」


ドキッ。


中身、という単語に一瞬心臓が跳ねたが、

どうやら実行委員長に立候補した件を言っているらしい。


……よかった。

まだ正体はバレてない。


でも、いつまでも「記憶喪失」で誤魔化すのも限界だ。


「あのさ……」


私は意を決して聞いた。


「質問していい?」


「は?」


タカシが怪訝な顔をする。


「まずさ。私たち四人って、どんな関係だったの?」


「はああ?」


思いきり呆れた声。


「どういう関係って……ガキの頃からずっと一緒だろうが!」


タカシは指を折りながら語り出す。


「俺とユウスケとナナミとお前でさ、毎日遊んで、駄菓子屋行って、海で泳いで――」

「風呂も一緒で……」


バシッ!


ナナミの強烈な一撃がタカシの後頭部に炸裂。


「イッテ!」

「お風呂は入ってないでしょ!」

「いや、あれは弾みだって!とにかくずっと一緒だったんだよ!」


……はい、確定。


この四人は幼馴染。

ベッタベタの。


「じゃあ……」


私は続ける。


「私とユウスケって、何かあったの?」


「はああ!?」


今度はナナミが爆発した。


「なにそれ!?あんた、ユウスケがどれだけあんたのこと思ってたかも覚えてないの!?」

「冗談でやってるなら本気で怒るからね!」


……これは。


ナナミの怒り方で、だいたい察しがついた。


たぶん――

ナナミはユウスケが好き。

ユウスケは野々花が好き。


で、野々花は――?


要するに。


三角関係じゃない?


ここからは仮説だ。


・ユウスケが野々花に告白

・その返事を巡って何か起きた

・ナナミが納得できない展開

・結果、ユウスケは学校に来なくなった


日記の内容とも、だいたい辻褄が合う。


「ユウスケって……」


私は記憶喪失という最強カードを切る。


「私のこと、好きだったの?」


「はああ!?」

「あれ?違った?」


今度は二人同時に声を上げた。


「知らねえよ!お前があっさり振ったんだろ!?」

「あんたの態度でユウスケ、どれだけ傷ついたと思ってんのよ!」


……あっさり振った?


あれ?


日記には、

「曖昧な返事をした」

って書いてあったはず。


つまり、

振ってない。

でも、はっきり答えてもいない。


それが――

「振られた」

という話になっている?


誰かが、話を歪めてる?


「ねえ、野々花……」


ナナミが俯いたまま、続ける。


「私ね、分かってたんだ。あんた、ユウスケのこと嫌いじゃなかったでしょ」

「見てて、すごくじれったかった」

「もし付き合うってなったら、応援するつもりだったの」


……あ。


「でもさ……なんであんなことになっちゃったんだろうね……」


今にも泣きそうなナナミを見て、私は確信した。


やっぱりこの子、

ユウスケのことが好きなんだ。


それなのに、

野々花を責めきれなかった。


……複雑。


恋愛偏差値ゼロの私には、正直かなり難題だ。


そして、最後のピース。


「あのさ」


もう止まらない。


「信二君って、私とどんな関係だったの?」


「はああ……もう無理」


ナナミががっくり肩を落とす。


「ユウスケの前にあんたに告ってきたヤツでしょ!」

「そのあとどうなったかは、こっちが知りたいっての!」


つまり。


シンジに関しては、

誰も全容を知らない。


「でもよ……」


タカシが思い出したように言う。


「ユウスケが“振られた”って言ってたの、確か信二の奴じゃなかったか?」

「うん。しかも、野々花と付き合ってるとか周りに吹聴してたよね」

「ムカつく野郎だよな」

「……でもさ」


ナナミがこちらを見る。


「シンジって、昔ユウスケとも仲良かったよね?」

「それに……あんたとも」


……え?


情報が、また増えた。


シンジ

ユウスケ

野々花


この三人、ただの三角関係じゃない。


なんか――

もっと面倒な線で繋がってる。


「……今日はここまで、かな」


正直、頭が限界だった。


事件の核心は、確実に見え始めている。

でも同時に、

とんでもなく厄介な匂いもしてきた。


……文化祭どころじゃなくなる予感しかしない。

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