第7話 「自分に会いに行ったら、会えなかった話」

翌朝。

私は野々花の高校の制服に着替え、

昨日まで自分が入院していた病院へ向かった。


……冷静に考えてほしい。


自分が、自分のお見舞いに行く。


何その哲学的イベント。


信じられない気持ちと、

変な緊張感を抱えたまま、病院の受付へ。


「えっと……戸倉英子さんのお見舞いで来ました」


受付の人は、

一瞬だけ端末を見て、

そして申し訳なさそうに言った。


「……申し訳ありません。面会謝絶です」


め、面会謝絶?


え、私そんな重症なの?


戸倉英子という人間は、

確かにこの病院に入院している。

それは確認できた。


でも、

会えない。


理由は教えてもらえなかった。


結局この日、

私は自分に会えずに帰ることになった。


……なんだこの話。


帰りのバスの中で、

私はぼんやり窓の外を眺めながら考えた。


これから、どうすればいい?


自分の体が存在していることは分かった。

ただし、

すぐに戻れる状況じゃないのも確実。


つまり――


しばらくは、稲村野々花として生きる。


そういえば、

野々花ってどんな子だったんだろう。


容姿は分かる。

鏡のおかげで毎日強制的に確認している。


でも、それ以外はまるで知らない。


性格。

交友関係。

学校での立ち位置。


……情報、ゼロ。


このままじゃ、

十七歳女子高生として生活する以前に、

速攻で不審者扱いされそうだ。


「……調べるしかないわよね」


家に帰ると、

私は覚悟を決めて準備に取りかかった。


まずは――

野々花の部屋の探索。


二階にある六畳の洋室。

カバンも教科書も、

きれいに整理されている。


「……几帳面」


完全に私と真逆だ。


私は一応、

「自分を知るため」という

もっともらしい理由を掲げつつ、

机や引き出しを一つずつ確認していった。


……他人の部屋を漁る背徳感。

でも今は野々花。

つまり合法。


しばらくして、

引き出しの奥から一冊のノートが出てきた。


少し厚めの、A4サイズ。


「……何これ?」


表紙は地味。

でも、

何か“引っかかる”。


私はページをめくった。


そこに書かれていた文字を見て、

思わず息をのむ。


「……日記?」


間違いない。

これは、

稲村野々花の日記だった。


――そうか。


これが、

彼女の心の中。


彼女が何を考え、

何に悩み、

どんな毎日を送っていたのか。


そして、

なぜあの夜、

あの駅にいたのか。


もしかしたら――

このノートが、

今の私を救う鍵になるかもしれない。


私は、

少し震える手でページを開いた。


真夜中に書かれた文字が、

静かに私を見つめ返していた。

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