第10話 家族

 


「アリスちゃん〜そろそろお家に帰りましょうか♪」

「はいなの!」


 ピクニックから帰ろうとしたその時でした。私達の方へと何者かが近付いて来たのです!


「見付けた.......アンナ。わたしの愛しの娘」

「貴方は誰!?」

「申し遅れました、私はその子の実の母親です。長い月日が掛かりましたが、やっと.......」


 はぁ.......!? 今更どの面下げてここへ来たというの!? 子供を捨てた癖に今更、母親面するなんて虫唾が走るわ! しかも何でこの場所が分かったの?


「帰りなさい。こんな可愛い子を捨てる母親等.......信用出来ません!」

「待って下さい! それには深い事情が.......」

「フェンちゃん、サラちゃん。その女を追い返しなさい!」


 私の命令でフェンリルのフェンちゃんとサラマンダーのサラちゃんは、耳の尖った金髪の女に威圧をかける。女は少し怯えた様子を見せたが、直ぐにこちらへと真っ直ぐな瞳で私と向き合った。


「その子はエルフの里で生まれた子。人間とのハーフです。ですが、エルフの里が人間達に襲撃され.......同胞の多くは奴隷として連れ去られ、そして我が子も.......」

「..............」

「夫は人間達に村を襲撃された際に命を落としました。私は泣く泣くエルフの里を離れ、私は一人娘を探す旅に出ました」


 何よ.......そんな同情を誘おうとしても無駄よ。私には..............通用しないわよ。


「確かに私には親としての資格は無いのかもしれません。ですが! これからは、私が命を懸けてアンナを守ります! お金なら働いてでも貴方様にお返し致します.......どうかその子を.......アンナを返して下さい.......」


 こんな女.......直ぐにでも力でねじ伏せれば良い事なのに。何なの.......この気持ちは!


「ママ? あのひとだぁれ?」

「アリスちゃん.......」


 私はアリスちゃんを実の娘の様に大切に育てて来ました。血の繋がりは確かにありませんが、それでも私はアリスちゃんの事を我が子だと思って大切にしています。我が子同然の娘を今更手放せ等.......出来る筈がない。


「ならば私に示して見なさい。その覚悟が本物か見極めて差し上げます!」

「..............!?」


 私は己の持つ全て魔力を解放した。【深淵の魔女】と謳われた私の全てを貴方にぶつける。勿論、直接攻撃する訳ではありません。貴方の母親としての覚悟を見極めるのです!


「わ、私は.......アンナの実の母親です! お腹を痛めて産んだ我が娘.......例え魔王や国.......【深淵の魔女】と呼ばれている貴方を敵に回したとしても! 私は我が娘を守る!」

「何故.......私の威圧が効かないの.......!?」

「娘を返して下さい! お願い致します!」


 私の全力の魔力を解放して、倒れない者などは初めてだ。このエルフの母親は.......ははっ、気持ちは本物と言う事か。


「アリスちゃん、ごめんね」

「ふぇ? まま?」


 私はアリスちゃんに睡眠魔法を掛けました。


「貴方の名前は?」

「イリスと申します」


 アリスちゃんの幸せを考えるなら、やはり血の繋がった親のほうが良いのかもしれない。私は今まで敵を多く作り過ぎた.......将来アリスちゃん.......アンナちゃんの未来に私のせいで迷惑をかける訳には行かない。本当の親なら、我が子の幸せを誰よりも願う筈。


「ミレーナさん、再度お願い申し上げます。私の娘を返して頂けませんか?」

「がるるるっ.......主、こいつ噛み殺して良いでしょうか?」

「我が主がどんな想いでお嬢を!」

「フェンちゃん、サラちゃんありがとう。もう良いの.......少し下がってて」


 いつかはこうなる時が来るかもしれない。それは分かってた.......でも。私はアリスちゃんと離れたくないと言うのが本音です。だけど、私の我儘でアリスちゃんの幸せを奪う訳には行かない。


「イリスさん、貴方の覚悟は本物ですね。お金も返さなくて良いです。アリスちゃん.......アンナちゃんの事をお願いします」


 アリスちゃんごめんね。今日で私はママでは無くなるけど、どうか幸せになってね。神様、この子の行く道に幸があらんことを.......


「ミレーナさん、ありがとうございます!」

「これを持って行きなさい」

「これは.......!? そんな受け取れませんよ!」

「これからお金も必要になる事でしょう。これは貴方の為ではありません! アンナちゃんの為です! 1つだけ約束をして下さい、この子を何が何でも幸せにしてあげて下さい!」

「はい、アンナの事は私が必ず!」


 これ以上の長居は無用ね。アリスちゃんとの別れが辛くなるだけだ。私も覚悟を決めよう。





 ―――数日後―――




「主ぃ.......そんなにお酒を飲んではお身体を壊してしまいます」

「だって.......アリスちゃん.......ぐすんっ.......呑まなきゃやってられないわ!」

「サラマンダー! 主を止めてよ!」

「主よ! おやめ下さい!」


 部屋には大量のお酒の空き瓶が転がっている。これは全て私が飲んだお酒だ。呑んでも呑んでもこのどうしようも無い気持ちが鎮まらない。これで良かったのだと自分で良い聞かせても、割り切る事が中々出来ないのだ。


「うわああああああんんんんっ.......!!!」

「主! これ以上お酒を飲んだら死んでしまいますよ!」

「アリスちゃん.......」


 もうこのまま酒に溺れて死ぬのも良いのかもしれない。アリスちゃんの居ない日常何て.......私には耐えられない!


「ママ!」

「え.......」


 あはは、お酒の飲みすぎでついにはアリスちゃんの幻覚が.......


「ママッ!」

「え、お嬢様!?」

「お嬢! なんでここに.......!?」


 本物のアリスちゃんなの? 数日前にイリスさんが連れて行った筈。


「ふぅえええんんんん!!」

「アリスちゃん!?」

「ミレーナさん、お久しぶりです。」

「イリスさん!? どうしてここに!」

「どうしても娘が貴方に会いたい.......離れたくないとの一点張りで」


 アリスちゃん.......こんな私で良いと言うのかしら? 私は泣いているアリスちゃんを優しく抱きしめました。あぁ.......本物のアリスちゃんだ。もう離したくない!


「身勝手で申し訳無いのですが、ミレーナさん.......私の娘の事をお願い出来ませんか?」

「え、それはどうして.......」

「あれから、娘はミレーナさんと一緒じゃないと嫌だ、ママの元へ帰る!と言って、どうしようも無くて.......」

「イリスさん、ならば貴方もここで暮らしなさい。貴方に拒否権はありませんよ?」

「え、良いのですか?」


 うふふ.......アリスちゃんが私の事をママだと言ってくれた事は素直に嬉しいです。ですが、イリスさんの気持ちも分かります。紆余曲折あって、娘と別れる事になったのは相当辛かったのでしょう。なら、私達みんなが幸せになる方法は、共に暮らす事では無いでしょうか?


「ミレーナさん、ふつつか者ですが宜しくお願いいたします」

「ええ、貴方はまだ見た所私よりもずっと若いですね。これからは私の事をお姉ちゃんと呼ぶように!」

「え、お姉ちゃん.......正気ですか?」

「文句があるなら、この話し無かったことになるわよ?」

「いえいえ! 滅相もございません!」


 このイリスさんという方も中々の美人です。まあ、私程では無いですけどね! 今更1人や2人増えた所でたいして変わりません。


「お、お.......」

「ん?」

「お姉ちゃん.......」

「うむ、宜しいです! イリス、これから宜しくね!」


 こうして、私達の新たな日常が始まりました。イリスさん、アリスちゃん、フェンちゃん、サラちゃん達と共に私達は共に歩んで行きます。

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