82 楽しいひととき(2)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)。神秘魔法で大人の姿などになれる。

・シアン…前・魔王討伐隊の一人で、デニスの兄貴分。アシュリーに想いを寄せていた。

・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。

・ニール…冒険者見習いとして活動している自称貴族の少年

・アラン…デニスの後輩の冒険者。騎士団に所属しながら、ニールの「冒険者の先生」をしている。


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 んー…… アランが言ってたのって、騎士に化けたリリアンの事だよな?

 あの感じじゃあ、本気じゃねえのか? だとしたら彼女はどうするつもりなんだろう?


 そう思いながら、カウンターの端に目を向けると、給仕の合間の一息だろうか、リリアンが何かを覗き込んでいるのが目についた。


 今の事、ちょっと聞いてみるか。

 そう思い、酒を持ってカウンターに席を移した。


「よぉ、何やってるんだ?」

「ああ、シアさん。これで遠くの人と手紙のようなやり取りができるんです。内緒ですよ」

 ひそひそと話しながら、手元をちらりと見せてくれた。手のひらサイズの板の様な魔道具――それに見覚えがあった。


「それ…… ルイの残していった物か?」

「これは別の物だが。でもあれを参考に作られてると聞いた」

 リリアンの口調が、不意にアッシュのそれになり、どきりとした。


「まあ、これでやり取りができるのも、神に繋がりのある者たちとだけだがな」

 そう言ってふっと鼻で笑う仕草も、あの頃の彼女を思い出させる。


「そういえば、ルイもあれで大事な友達と連絡がとれるって言ってたな」

「ああ、彼女はあれをとても大事にしていた。だから故郷に戻るのにあれを置いて行くわけはないんだ……」

 だから、ルイの身に何かがあったのだと…… それだけで判断できる事ではないのだが。


「そういや、今度アランと食事するんだろう? リリスで」

「ああ、なんか武器の扱いとかの話を聞きたいって言われましたー」

 ころりと元の口調に戻って、のんきに答える。

 ぜってーアランはそれだけのつもりじゃあないと思うんだけどな……


 と、覗き込んだカウンターの中に、トレントの小枝の束を見つけた。

「ん? あれはトレントか?」

「そうそ。私たちが王城に行ってた時に、デニスさんやニールたちでトレント狩りにいったんですって。マーニャさんも一緒だったそうで」

「うん? 誰だそいつ?」

「魔法使いの女性です。美人な方ですよ。てっきりシアさんもお知り合いかと思いましたが」


 ああ、そういやデニスから何度か名前は聞いた事あるな。てか、美人だったら俺が食いつくとでも思ってんのか?

「うーーん。アッシュ以外の女には興味ないからなぁ」

 リリアンの顔を見つめながらそう言うと、彼女のツリ目がちょっと驚いた様にまん丸になった。可愛いな。


「おーい、リリアンー。ちょっといいかー?」

「あ、はーい」

 デニスがリリアンを呼ぶ声がした。彼女はちらりと俺に視線を寄越して、テーブルの方に行ってしまった。


 今、ちょっといい感じだったんじゃないか?

 デニスのヤツめ、わざと邪魔しやがったな。


 * * *


 ふと見ると、仕事合間のリリアンにシアンさんがちょっかいを出しているようで、二人きりで話していてやきもきした。

 ったく、油断も隙もあったもんじゃねえ。やっぱり一緒に住む事になって正解だな。


 テーブルに来たリリアンに、新しい酒を注文する。

「ああそうだ、もう俺の荷物はお前の家に移し終わったからな」

 厨房に向かうリリアンに向けて、わざと皆に聞こえるように話した。


「え? デニスさん、またリリアンの家に行くの?」

 こういう話をすれば、ニールが食いつくのはわかっている。

「ああ、リリアンの空いてる部屋を使わせてもらう事になった」

「えー、なんだそれ。いいなー」

 ニールが大袈裟おおげさうらやましがって、アランに小突かれた。


「シアンさんも居るしな。あのおっさんを放っておけないだろう?」

 本当は別の理由があるんだが、3人で旅にでる話はまだ明かさない事になっている。

「じゃあさ、また今度泊りに行ってもいいかな?」 

 ニールが目をキラキラさせながら、そう言った。


 * * *


「ニール、あんまりリリアンさんに迷惑かけちゃダメですよ」

 そうアランに小声で注意された。

 わかってるけどさ、でもやっぱり楽しそうだなって思うんだよな。


 なんだかいいよなあ。こうやって皆でわいわいしてさ、いつもの場所に皆がいてさ。


 また皆でクエストに行きたいな。あと4か月もすれば、俺も冒険者になれる。そうしたら、もっといろんなクエストに行けるよな。


 またバジリスク狩りに連れていってもらえないかな。

 その前にまた皆でオークでも狩りに行くのもいいよな。


 手にした焼き鳥を頬張ると、甘じょっぱいタレとリーキの甘味が、ヤマドリ肉の旨味と一緒に口の中に広がった。

 王都に来て初めて知った焼き鳥の味は、いつもの様にとっても美味かった。


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(メモ)

 騎士、リリス(#63、#77)

 板の様な魔道具(#29、#62)

 バジリスク狩り(#5)

 オーク狩り(#57)

 焼き鳥(#5)

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