Ep.13 勇者の剣/ルイ(1)

◆登場人物紹介(既出のみ)

・ルイ…神の国から来た『勇者』の少女

・シア…冒険者の『サポーター』。栗毛の短髪の青年。アッシュとはこの旅の前からの付き合いがある。

・クリス…『英雄』で一行のリーダー。人間の国の第二王子。金髪の碧眼の青年

・アッシュ…冒険者の『英雄』。黒髪長身の美人

・アレク…騎士で『サポーター』。クリスの婚約者でもある。

・サム…魔法使いの『サポーター』。可愛いらしいドレスを着た、金髪巻き髪のエルフの少女

・メル…魔法使いの『英雄』。黒髪の寡黙な青年


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 ギャアギャアと言う耳障りな鳴き声と、バサバサと翼を羽ばたかせる音が、無数に空から降りてくる。


「くそっ! いったいどんだけ居やがるんだ!」

 舌打ちの音と一緒に、シアくんが悪態をつくのが聞こえた。


 女の人の顔と胸がついた奇妙な鳥たちは、鋭い鉤爪で代わる代わるに攻撃を仕掛けてくる。


「こんなに数が居ると、厄介だな」

 鳥お化けに魔法をバンバンと当てながら、メルさんが呟いた。


「ルイ、やれるか?」

 鳥お化けを振り払いながら、クリスさんが私に声を掛ける。

 そうなんだ…… 私も戦わないといけないんだ。

 昨日の大きい猪の時みたいに、やればいいのよね。意を決して剣を構えた。


 一番近い鳥お化けに向かって、剣を突き出した。が、あっけなく飛び上がってかわされてしまった。

 よろけて体勢が崩れたところに、別の方向から迫って来る羽ばたき音が耳に届いた。

 咄嗟とっさに、その音の方に向けてがむしゃらに剣を振り回すと、何かがぶつかった感触と、ギャン!と鋭い鳴き声が響いた。


「ルイ! 止めを!」

「はい!」

 地面に落ちた鳥お化けの所に駆け付け、剣を振り上げ――


 ヒュー…… ヒュー……


 苦しそうな呼吸音に、振り上げた手が止まった。


 目の前で倒れているのは、血まみれの女の人だった。

 いや、違う。これは魔獣なんだ。人じゃない。人の顔と体を持っているだけだ。

 でも、でも……


 ゴフッ


 変な音と一緒に、その女の人は苦しそうに血を吐き出した。


「あ…… で…… できない…… 怖いっ!!」

 そう叫ぶと同時に、何かが右の肩にぶつかって痛みと共に吹き飛ばされた。


「ルイ! 避けろ!」

 シアくんの叫び声に顔を上げると、別の鳥お化けがもう一度私に飛び掛かろうと迫ってきている。どうすればいいかわからなくて、体が強張こわばった。


 その途端、何かに押されたような感じがして、また吹き飛ばされた。飛ばされた方向に居たシアくんが、私を受け止めてくれた。

「大丈夫か?」

 その言葉を聞いて、夢中で彼にしがみついた。


「シア、ルイを守ってやってくれ」

 少しだけ離れた場所から、アッシュさんの声が掛かり、ああとシアくんは答えた。でも、その目は私でなくてアッシュさんの方を見ている。

「でも、アッシュが……」

「私は大丈夫だ。その方が思い切り戦える」

 そう言いながら、彼女はひと振りで2羽の鳥お化けを叩き落とした。すごい……


「俺が守ってやるからな」

 そう言ってシアくんは私の肩を抱き寄せる。彼の胸元に頬が当たった。


 あ……


 さっきとは違う、別の緊張で胸が弾けた。

 ……何を考えてるんだろう、こんな時に。不謹慎だろう、私。


 でも一度鳴り始めた胸の警鐘けいしょうは、なかなか収まらなかった。


 * * *


「ありがとうな」

 そう言ってシアくんは、いつもみたいに私の頭を撫でてくれる。年は同じなのに、なんだか子供みたいな扱いだ。そりゃ、私の方がずっと背が低いけどさ。

 でも、こうして彼に触れてもらえるのは、嫌じゃあない。


 そんな御礼を言われるような事を、私は何もしていないのに。

 というより、私は何もできない。だからせめて、こうして皆の助けになるように、お洗濯や旅の道具の手入れのお手伝いとかをしている。


「本当は勇者のルイにさせるような仕事ではないのだが……」

 申し訳なさげに言うアレクちゃんに、ううんと首を横に振って応える。

 だって、これくらいしか私に出来る事はないんだもの。それに、

「こうして皆と一緒に何かするのも楽しいよ」

 そう言うと、アレクちゃんは不器用だけど優しい笑顔を見せてくれた。



 なんで、私がここに居るんだろう? そう、今でも思う。


 いつもと変わらない日だったはずのあの日、訳もわからぬまま、気付けばこの世界に居た。

 この世界を救ってくれとか一方的に言われて、冗談じゃないとも思った。


 右も左もわからなかったけれど。そんな私に、この皆はとても良くしてくれた。

 この世界の人たちが困っているというなら、力になりたいとは思うけどさ。でも正直言うと世界がどうこうよりも、この皆の助けになるのなら、その為に出来るだけ協力したいなって、今ではそう思ってる。


 でも本当に、いったい私に何ができるんだろうか? ただの女子大生だった私に。

 剣なんか持った事もなかったし、私には魔力も無いそうだ。勿論、魔法だって使ったこともない。そんなの、ゲームかマンガの中の話でしか見た事ないもの。


 それでも、あの勇者の剣を持つのは私でないといけないんだって。


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(メモ)

 (Ep.4)

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