75 告白/シアン(1)
◆登場人物紹介(既出のみ)
・リリアン…主人公。前世の記憶を持つ、黒毛の狼獣人の少女。転生前は前・魔王討伐隊、『英雄』のアシュリー(アッシュ)。教会の魔法使いしか使えないはずの魔法を使う事ができる。
・シアン…前・魔王討伐隊の一人。アシュリーとは討伐隊になる前からの付き合いがあり、ずっと彼女に想いを寄せていた。この旅でリリアンの前世を知った。
・デニス…西の冒険者ギルドに所属するAランクの先輩冒険者。リリアンに好意を抱いている。
・サム(サマンサ)…前・魔王討伐隊の一人でエルフの魔法使い。2か月程前に亡くなっており、かつての仲間宛に日記を遺していた。
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ずっと一緒に居たいと5回は言った。
いつもそばに居るも同じくらいか。
家族になりたいは二度。
同じ名字になりたいと言ったこともある。
好きだって言葉は、20を超えてからは数えるのをやめた。
数えれば数えるだけ虚しくなって、ため息の深さばかりが増していった。
想いを言葉に紡いでも、そのたびに受け流された。
いや、違う。彼女の心には届かなかった。
あいつにとって、俺はそういう相手じゃなかった。
その証拠に、同じ部屋に泊まっても、隣のベッドで休んでも、あいつは俺を気にする事もなくぐっすりと眠ってしまう。
ああ、そうか。
だからリリアンも、俺を気にしていなかったんだ。
同じベッドで目が覚めても、裸のまま俺の腕に抱かれても。彼女が気にしていたのは自分じゃあなくて、俺の事ばかりだった。
* * *
デニスが帰って来ると、リリアンは何事もなかった様に俺の腕からするりと抜け出た。
「すいませんが、夕食の前にお風呂に入って来ますね」
床に足をつけると、そう言って軽い足取りで浴室へ行ってしまった。
デニスは拍子が抜けたように、ああとだけ言って見送った。彼女の姿が扉の向こうに消えると、怖い目で俺を
まぁ、そりゃ怒るよな。
俺はデニスがリリアンを好いている事を、以前に聞いていた。その時にゃ、リリアンがアッシュだって事は知らなかったし、デニスの事を応援するつもりではいた。でも今は事情が違う。
ただ正直に言うと、まだ半分は信じられない気持ちがある。それほどにリリアンはアッシュとは違いすぎる。
何かの理由で、彼女がアッシュの過去を知っていただけで、生まれ変わりの振りをしているんじゃないか、そう思う方がしっくりくるくらいだ。この『龍の眼』が無ければ、そう思っているだろう。
でもこの眼が、あれはアッシュだと伝えている。納得しきれていない自分もいる。
大きく息を吐き出して、まだ俺の事を睨んでいるデニスと視線を合わせた。
「なあ、デニス」
「なんだよ?」
まだ不機嫌なようだが、それでもちゃんと返事をするのがこいつらしい。
「お前、リリアンに好きだって言ったのか?」
そう尋ねると、
「いや…… 言ってねえ」
そう言って、
さっさと言っちまえばいいのに。以前はそう思っていたけれど、今はそうはいかねえんだよな。
もしデニスが「好き」と言っちまったら、リリアンは気持ちをこいつに預けてしまうだろうか。
メルの時が、そうだったように。
* * *
3人での夕飯の後に、サムの日記を広げる事になった。
「デニス、今日はお前はもう帰れ」
「なんでだよ?」
「これはお前にゃ関係ない事だ」
「でも、おっさんとリリアンを二人にしておけねえ」
そう言って助けを求める様にリリアンの方を見るが、リリアンは、意味が分からないようにきょとんとした顔をした。
「お前には話すが、サマンサは死んでいた」
「え……」
「今回、その遺品を受け取って来たんだ。それを確認しないといけないが、他のヤツにゃ見せられない。わかるな?」
「……ああ」
「これはかつての仲間にと言われて受け取って来た物だ。だからそれ以外のヤツにゃ見せる訳にはいかない。この事はリリアンもわかっているよな」
「はい、もちろんです」
「……という事だ。あと、サムが死んだ事は内密にしてほしい」
遺品、という話がさすがに響いたのだろう。デニスは真剣な
この話で納得してくれたのか、デニスはそれ以上ごねる事はせず、「リリアンに手を出すなよ」と怖い顔で忠告してきただけで、素直に帰って行った。
* * *
「まあ、嘘はついてないよな」
そう言うと、リリアンもくすりと笑った。
仲間以外には見せられないと、デニスには言った。でもリリアン――つまり、アッシュは仲間なのだ。デニスが知らないだけで。
ソファーに腰かけた俺らの前に、サムの日記がある。
リリアンがそっと手に取ってまず表紙をひらくと、最初の数ページは破られていた。
「どうしたんだ? これは」
「見られたくない事が書かれていたのだろう。これは日記なのだからな」
急に変わった口調に驚いて、彼女の顔を見た。これは、アッシュの口調だ。
「変……か? この方が昔の事を思い出す」
「……いいや、変じゃあ、ない」
けれども、多分何かが違う。
「でも私はリリアンだ。アシュリーじゃない」
彼女は視線を落として、まるで自分自身に告げる様にそう言った。
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