2 クエストに行こう

 鏡に向かい髪にブラシをいれると、ブラシの通ったところから、黒い髪に艶が戻っていった。

 故郷のきょうだいたちは皆グレーの毛色で、私だけが黒毛で生まれた。おそらく前世の私が黒髪だったから、その所為せいなのだろう。でも人間だった前世と違い、今の私には黒狼の耳と尾、そして人間より鋭い牙がある。


 動くのに邪魔にならぬよう長い髪を後ろでまとめ、昨日ミリアちゃんに貰ったピンクのリボンを付けた。

 このリボンはミリアちゃんとお揃いなんだそう。だけど金髪の狐獣人のミリアちゃんの方がこの色は良く似合う。ミリアちゃん自身もとても可愛いくて、正直ちょっと羨ましい。


 首には内側に魔法石をめたチョーカーを着け、外出用の服に着替えた。生成りのチュニックに、動きやすいショート丈のキュロットはミリアちゃんが選んでくれたものだ。


 これからは冒険者として活動できる。ランクアップをして、上位のクエストにも行けるようにならないと。

 ふと思い出して、アイテムボックスから地図を取り出した。これは私だけの地図。前世の私の記憶を辿り、今の私では得られないような様々な情報を書き込んである。

 まだこの地図は使わない。アイテムボックスに戻し、呪文スペルを唱えて鍵を掛けた。


 * * *


「おはようございますー!」

 冒険者ギルドのドアを開けると、あちこちから「おはよう」の返事が返ってきた。今日はデニスさんたちに、Dランクのクエストに連れていってもらえる事になっている。


 冒険者としてのランクアップの条件は二つ。

 1、ギルドのクエストをこなして、次のランクまでに必要な経験値を貯めること。

 2、ランクに見合うクエストを必ず一つはクリアすること。

 冒険者見習いのうちに沢山クエストに同行させてもらっていたから、もうワンランクアップできるくらい経験値は溜まっているはず。今日のクエストをこなせば、またランクアップ出来るかも。


 まだデニスさんは来ていなかったので、いつもの習慣で依頼ボードに向かう。


「よ、リリアンー」

 後ろから声をかけられ振り向くと、金髪の少年が立っていた。

 って、なんでこいつが西ここの冒険者ギルドにいるのよー いつも中央のギルドにいるのに……


 彼の名はニール。どこぞの貴族のご子息らしい。まだ冒険者見習いなのにわりかし良い装備をしているし、いつもお供の冒険者さんとクエストをこなしている。私と同じように、見習いのうちに経験値稼ぎをしておいて、成人したら一気にランクアップするつもりなんだろう。

 まぁ、偉そうにふんぞり返ったりはしてないから、そこは良いんだけどね。冒険者見習いの女の子は珍しいからか、何かと絡んでくる。


「おはよー、ニール、アランさん」

 ニールの後ろに立つ銀髪のおにいさんは、私の挨拶に柔らかな笑みで応えた。

「おはよう、リリアンさん」

 ニールのお供をしているアランさん。彼は相変わらず出来る大人って雰囲気だ。お坊っちゃんのお守りは大変そうよねぇ。


「今日はよろしくなー!」

「……へ???」

「デニスさんとクエストだろう? 俺たちも一緒だからさ!」


 いや、ちょっと、聞いてないし。それにニールはまだ見習いでしょ? 今日はDランクのクエストのはずだけど……

「ニールは『手伝い』で連れてくだけですから、大丈夫ですよ。私が見ていますから」

 私の疑問に気付いたのか、アランさんがにっこり笑って補足してくれた。


 基本的に冒険者見習いが受けられるクエストはFランクのみ。でもクエストを受けなければ、それ以上のクエストに同行するのは可能だ。パーティー内での役割は、荷物持ちや解体の手伝いなどなど。勿論クエストを受けてないので、冒険者としての経験値ははいらないけど、先輩の戦いを見学できたり、素材のおすそ分けがあったりとメリットもある。

 私もよくそうやって連れてってもらったから、そこはわかってるけど…… そういや一緒にパーティー組んだことないから、ニールの実力わかんないわ。


「よっ!! 待たせたなー!!」

 突然、後ろからわしわしと頭を撫でられた。ニールの金髪も一緒にぐしゃぐしゃにされている。

 デニスさんと、その後ろに立つのはマーニャさん。彼女はとても腕の立つ魔法使いで、それ以上に美人でセクシーな事で皆の目を引いている。ちなみに私と違ってとても胸が豊かなのも男性にはいいらしい。


「今晩は焼き鳥だぞー」

 デニスさんは相変わらずだな。今日はこのメンバーで鳥狩りらしい。


 * * *


「なっんっでっ、お前のが年上なんだよ!!」

 ニールが不満げに私をにらみつける。

「なーに、わけわかんない事言ってるのよ!」

「おかしいだろ!! どう見たって俺より年下だし! ちみっこいし! 胸だって全然ないし!!」

「なっ!! 胸は関係ないでしょーー!! セクハラーー!!! 獣人なんだから、人間とは違うの当たり前じゃない!!」


 そう、人間と獣人だと成長具合が違うのだ。獣人は人間に比べて幼年期は短く、代わりに少年期~青年期が長い。なので、学校に入る頃は獣人の方が大きいけど、成人する頃には人間の方が見た目の成長は上になる。

 ちなみにエルフは青年期までしか成長せず、ドワーフは壮年期が異常に長い。


 だ・か・ら、私の成長はこれで普通だし、多分背も小さくはない! むしろニールの背が高いのよ!


「同じ見習いだと思ったのに……」

 ニールが悔しそうに呟いた。つまりは私が同じ冒険者見習いだと思ったら、冒険者デビューしていたので驚いた、という事らしい。まあ、たしかに前回中央ギルドで会った時には、まだ見習いだったんだけどねー。


「おーい、そろそろいいかー?? 自己紹介進めたいんだけどな?」

 デニスさんが、私とニールの頭をまたわしわしと撫でまわした。


 今日は初対面同士も居るので、まず自己紹介をしていたのだ。


 デニスさん…人間、剣士、Aランク、主なスキル:剣術、槍術、火魔法

 マーニャさん…エルフ、魔法使い、Bランク、主なスキル:回復魔法、水魔法

 アランさん…人間、魔法剣士(複合)、Bランク、主なスキル:剣術、風魔法、回復魔法

 ニール…人間、冒険者見習い、(ランクなし)、主なスキル:剣術

 リリアン(私)…獣人、獣戦士、主なスキル:剣術、獣化(完全)


 本当は皆もっと色んなスキルを持っているのだけど、こういう時はクエストに関係する高レベルのスキルのみ紹介する事になっている。

 って、このメンバー、レベル高いし回復魔法もち多くない? デニスさんてばどういうつもりだろう。

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