第3話 心変わり

昭太郎は帰宅した。

美代子の顔を見ると、涙があふれてきた。


「すまない。別れてくれ……。上司が紹介した縁談だ。断ったら会社にいられなくなる……」


美代子の顔は般若のような形相になり、昭太郎をなじり倒した。

昭太郎は、何も言い返さず、黙って聞いていた。


やがて、美代子は膝から崩れるように座り込むと、声を上げて泣き始めた。

いつまでも泣いていた。


昭太郎には何もできなかった。


おもむろに、美代子は立ち上がると荷物をまとめ始めた。

「私のお腹に、赤ちゃんがいるの!」


美代子の言葉に、昭太郎は顔面蒼白となった。

昭太郎は、何か言葉を紡ごうと必死になったが、乾いた口は何も言葉を発することはできなかった。


「私、昭太郎のこと、絶対に許さないから!」


美代子は村に帰って行った。


会社役員の娘との縁談は進み、数か月後、昭太郎は沙織と結婚した。


昭太郎は、故郷とは縁を切る思いで仕事に励み、そして沙織との結婚生活を充実させていった。


沙織は、使命感をもって働く夫、昭太郎を敬愛していた。


それから、数年が過ぎた。


昭太郎は、故郷にまったく帰っていなかった。

村人に合わせる顔がなかったのだ。


昭太郎は親からの手紙で、村の様子を知った。


美代子は、村に帰って昭太郎の子を産んでいた。

女の子だ。

亜寿未あすみと名付けられたとのこと。


一方、昭太郎と沙織との間にも子が生まれていた。

男の子だ。

松吉しょうきちと名付けられた。


昭太郎は、沙織との結婚によって出世を果たし、研究開発部長になった。


息子の松吉もすくすく育ち、父の後を継ぎたいのか、製薬会社に入りたいと言ってくれている。


昭太郎は、沙織との幸せな結婚生活に夢中になり、故郷のことや美代子のことをすっかり忘れてしまっていた。

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