4 ファーストキス


 けれど、告白をして後悔してるかと言われたら、答えはノーだ。


 僕は海凪さんのことが好きだし、頭の中ではずっと彼女のことばかり考えたりしてる。好きという気持ちはウソ偽りのない、本物だ。

 それに彼女は、めんどくさ……甘えん坊な一面もあるって知れたし、情熱的に愛してさえあげれば、容姿端麗、成績優秀というとても魅力的な人物なのだから。


 「温森くん、どうかしたの?」

 「あ、いえ……その」

 「言いたいことがあるのなら、はっきり言いなさい」

 「なんで僕の膝の上で弁当食べてるんですか?」


 僕の好きな人で、氷の女王と呼ばれてるようなお方は、なぜか僕の膝の上に腰かけていて。

 特に気にする様子もなく弁当を食べていたのだ。背筋をしゃんと伸ばして、綺麗な箸使いでおかずを口に運ぶ姿はそれはそれは美しい……じゃなくて。


 いやまぁ、座っていいかと聞かれたから座らせてあげたんだけど、そういうことが言いたいわけじゃない。

 すぐ横にベンチがあるってのに、わざわざ腰かけてくる理由が知りたいのである。

 

 「こうすれば、温森くんに愛してもらえるでしょう」

 「え、それは……具体的にどうすればいいんでしょうか?」

 「なぜ私に聞くの? あなたの情熱的なアプローチを期待してる私に」

 「あ、いやごめんね! リクエストとかあったら言ってほしいなって!」


 スカートのポケットに手を動かすのが見えたので、慌てて出まかせを言ってみた。

 するとどうやら悩んでる様子。あごに手を当てて考え込む姿はまるで女神のよう。


 というか、危なかったな……愛し方を聞いただけでもアウトなのか。

 

 「……ん?」


 いや、待てよ? ということは、情熱さえあればなにをやってもいいのか?

 抱きしめたりとか、頬っぺたにキスとかは大丈夫そうなので、もしかしたらそれ以上のこともいけるのでは。

 

 「……っ」


 僕は感覚を、下腹部に集中させる。そこには海凪さんのお尻が乗っかっていて、スカート越しにでもその柔らかさと弾力が伝わってきてて。

 ワンチャン、触ってもいいのではないだろうか? パンツとかも見せてもらえたりするかもしれない。中に手を入れてみたりとかも……。


 なんだかそんなことを考えてたら、余計なものが反応してしまった。いや、ぶっちゃけもう早起きみたいなものだったけど、さすがにこれはバレる。


 「なにか固いものが、当たってる気がするのだけど」

 「え、いやぁ、気のせいだよ! それより、なにか思いついたかな!?」


 意識をソレから逸らしてもらえるよう、会話を振ってみる。

 すると彼女は、僕の目を見つめてきた。


 「キスしてほしいわ」

 「え、また頬っぺたに?」

 「唇に決まってるじゃないの」


 ちょっと恥ずかしそうに頬を朱に染めながら、海凪さんが言った。鋭いぐらいの眼差しが、少しだけ見開かれて、その透き通るような瞳に僕の顔が映っている。めちゃくちゃ真っ赤な顔をしていた。

 そりゃそうだろう、海凪さんとキスだなんて男子にとっては憧れの行為で、おいそれとやっていいものじゃない。


 「ほ、本気なの……?」

 「本気よ。だから、してちょうだい」

 「……っ」


 目の前に、海凪さんの唇がある。ピンク色のつやつやした綺麗なものだ。僕にとっては宝石よりも眩く輝いて見える。

 ヤバい、心臓がバクバクいってる。まぁ、こんなの平然としてられる方がおかしいんだけど。


 焦りながらも、僕は覚悟を決める。してあげなきゃスマホを取り出すだろうし、なにより僕がしたい。その可憐な唇を味わってみたいのだ。


 「れ、冷奈ってさ、初めてだよね?」

 「そうよ。ファーストキス」

 「じゃあ、優しくするから」


 じゃあもなにも僕も初めてなんだけど、そっちの方がときめくかなと思った。

 と、僕の思惑通り、海凪さんが目を泳がせている。ドキドキ、してくれてるんだろう。めちゃくちゃ可愛い。

 心臓をぎゅうぎゅう掴まれながらも、ゆっくりと手を伸ばし、彼女の頬に触れた。

 僕はゆっくりと顔を近づけていく。


 「……っ」


 口元が、海凪さんの唇に触れた。柔らかで、溶けてしまいそうなほどの温もりが伝わってくる。

 それにすごく甘い。砂糖菓子みたいに甘くて、ずっと触れていたくなるぐらい気持ちがいい。

 

 「ふっ……んっ……」


 海凪さんから漏れる鼻息がこそばゆい。それでもこの感触を味わい続けたかったから、僕はより唇を押しつけた。

 あぁ、頭がぼーっとしてくる。この時間がずっと続けばいいのに……。


 「んっ、はぁ……っ」


 うまく呼吸ができなかったのか、海凪さんが苦しそうに離れていって、幸せな時間が終わりを迎えた。

 僕らの間をつなぐ透明な糸が、橋みたいにかかり、ぷつんと途切れる。

 もうちょっとキスしてたかったなと残念がる僕をよそに、呼吸を整えたらしい海凪さんが少しだけ微笑んだ。


 「キスって、すごいのね……。こんなに、ドキドキするなんて」

 「あっ、喜んでもらえたみたいでなによりだよ」

 「温森くん、慣れてるみたいだけど、したことあるの?」

 「え、いやいやっ! 初めてだよ! 冷奈としかしたことないから!」

 「そう」


 あれ、なんかちょっと嬉しそう? そんな表情も見せるときあるんだ。

 僕の彼女がめっちゃ可愛いので腕を回し、抱きしめてやることにする。すると、温もりを預けるようにして、海凪さんが身を寄せてきた。

 その細く柔らかな身体を抱きしめながら、しばらくの間、僕は幸せな時間を過ごすのだった。

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