第11話 勝負するとか
「……本当にどうしよう。私生きて帰れるかな」
ついに勝負の時がやってきた。いくら一対四だといえど、レベッカには自信がなかった。やる気のあるほか三人とは違い、一人訓練場わきのベンチに座っていた。
「大丈夫だよレベッカ」
「わっ、バジルも来てたんだ!?」
レベッカの後ろからバジルは登場した。
「仕事は?」
「終わらせた。ちょっと見てみたかったんだよね、この戦い。これからの魔王軍との勇者遠征に役立てたらいいなって」
困ったように言うバジルに、レベッカはまた恐ろしくなった。
(……魔王軍、本当に私は戦わないといけないの?)
バジルはそんなレベッカに、紐を通してある石を渡した。
「これ、あげる」
「これは……?」
「これは真夜中の姫の召喚術を、一般の人もできるように考えられたものなんだ。まず、召喚術は普通はできないものなんだ。できたとしても、超高密度で純粋な魔力を持った人が何人も集まって、ようやく何かを召喚できるんだ」
レベッカは自分が召喚された話を思い出した。
「やっぱりそう考えると、異世界召喚ってすごいんだね」
「そうだよ、もうやりたくない。……真夜中の姫は、目に見える場所ならありとあらゆる場所からいろいろなものを召喚できたらしい」
もっとも、一番召喚しやすいのは手のひらからだけど、とバジルは言う。そして、レベッカの首にそれを付けた。
「まず、彼女の親族じゃないとこの石を使えない。同じタイプの魔力が流れてないとだめみたいだ」
「え、私親族じゃないよ?」
「けど彼女が考えた……つまり、彼女の魔力と似た魔力を使って君たちを召喚したから、多少はできるんじゃないかなって思ってるんだ」
「でも、これ私が持ってていいものなの?」
「四人の中でレベッカが一番心配だからね」
「なんかごめんなさい」
すると、訓練場からオリバーの呼ぶ声が聞こえてきた。
「レベッカー!!! 逃げることは許されない、直ちに始めるから来るように!!!」
「それじゃあ頑張ってね」
「……ほどほどにね」
レベッカはそう返し、震える足で走って向かった。
「これより、騎士団精鋭部隊養成長、オリバー・フリグシュガー対、勇者四人の勝負を始める!」
この勝負は、夜に愛されたと言われる美しい女性、養成副長のナーシャ・クラウドが審判をすることになった。
「オリバー、勝負場所の範囲はどこまでにする。訓練場の敷地内か? それとも、向こうにある訓練用の森も含めるか?」
「どこまででもいいぜ。こいつらが逃げ出しても、俺はこの訓練場から出さないからな」
「はぁ? 逃げ出すわけねえよ!!」
イズナがすぐに殴り掛かりそうになったが、先にナーシャにねじ伏せられた。
「戦うのはまだ早い」
「ッ……」
ナーシャはイズナがもう対抗しないと判断し、イズナの首をつかむ手を放した。イズナは舌打ちをして立ち上がる。オリバーはすぐに起こったような顔をしたが、ナーシャは気にしていなかった。
「行動範囲は無限大! なお、意識がなくなったら戦争続行は不可能とみなす。その場合直ちに医療班は運び出せ!」
「「「はい!」」」
意識がなくなったら、の部分でレベッカはすでに意識を失いそうになった。この後の戦いを予想したら死にたくなったのだ。しかし、無情にも戦いの時間は来てしまった。
「それでは、始めっ!!!」
周りに人は基本いない。バジルと審判、医療班のみだ。
「先に攻撃しろよ」
オリバーが挑発する。イズナは簡単に挑発に乗った。
「やってやんぞおらぁ!!」
「おい、よせイズナ!」
アーベルがすぐに止めに入るが、イズナはすでに走り出した。そして、拳を構える。どうせすぐに殴られておわるでしょ、とレベッカは思った。しかし、隣のポッカの声で、どれだけことが重大か気づいた。
「ちょっと待つんだニャ……」
「どうしたの?」
「あいつ、持ってる武器が……!」
イズナの右腕に、鉄でできた斧が振りかざされた。
「イズナ!!!」
レベッカは大きな声で叫んだ。
しかし、血が飛び散ることはなかった。
信じられないことに、イズナの腕は斧を受け止めていた。血も流さず、けがもせず、ただ受け止めていた。
「ぐっ……やっぱり攻撃が重い……渋谷の敵チームの総長に殴られてる気分だ」
「どういうことだ!? 斧を受け止めるなんて……」
「このままいくぞ!」
イズナは左腕を振りかざす。すかさず斧を振るオリバーだが、イズナの攻撃はフェイントであった。イズナは右足でオリバーの脛を蹴った。オリバーは痛みで地面に倒れこみそうになった。
「あれが、イズナの力……」
イズナはもう一度攻撃をしようとした。オリバーは斧が効かないと分かると、斧を捨てて肉弾戦に持ち込んだ。
イズナは顔に強烈なパンチを食らった。鼻血が出て、全く止まる気配がない。それでもイズナは戦いに挑んだ。が、やはり年月が違うのか、オリバーの強烈な蹴りをおなかに食らって倒れこんでしまった。
イズナがもがいているところを、さらに蹴ろうとする。
しかし、ポッカがその足を止めた。
「おいイズナ! 動けるか!?」
「無理だ……けど痛くて気絶もできねぇ。する気もねぇけどよ」
「なら邪魔だから遠くにいろ!」
ポッカはイズナを遠くへ投げた。アーベルが受け止めて、すぐに簡単な処置をする。
「傷口の砂を落とそう。レベッカ、水を頼む」
「わかった」
レベッカは手から水を出し、擦りむいた傷の砂を落とす。
「ありがとう……それ、お前の力なんだな」
「うん、一応」
「俺の力なら勝てると思ったけど、ダメだった……俺、体の形が変わらない程度に、体を強化できるんだ。だから、斧も受け止めれた」
「あ、だから切れなかったのか……!」
「それはすごいな……」
アーベルも感心した。
「ただ、すっごく重い攻撃だった。お前も、無理なら逃げろ」
イズナはそう言い、オリバーをめいっぱい睨んだ。
レベッカとアーベルがイズナの治療をしている間も、ポッカはオリバーと激しい戦闘を繰り広げていた。
「……あの二人の勝負、すごい」
「本当だな……ポッカから、魔物は戦い慣れていると聞いた。俺らの中じゃ、一番戦えるだろう」
アーベルがそう言うと、イズナが口を挟んだ。
「ただ、アイツより弱い」
「それは戦わないと分からないだろ!」
「いいや、分かる。だって、脳を強化して考えたんだ」
「脳も強化できるの!?」
「ああ……考えた結果、残念だけどあのまま一人対一人じゃ負けるな」
「なら今すぐ加勢するぞ。イズナ、ケガはもういいな。レベッカもいけるか」
「無理だ。ただがむしゃらに戦ったら負ける。——解決案がある。聞け、二人とも」
イズナは寝転がるのをやめ、二人に言った。
「まずはアーベル、お前の力を貸せ」
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