第9話 いつもご機嫌ガールが……

 俺は安心している。


 1回のデートくらいじゃ、男と女の関係はそうそう変わらない。


「よう、月島」


 朝、俺は自分の席に座ったまま、そばを通ったやつに言う。


「……おはよう、竹本くん」


 ほら、いつも通り、何ならいつもよりも、蔑むような目だ。


 俺がもしドMだったら、この表情だけでごはん3杯は行けるだろう。


 そして、月島はスタスタと自分の席に向かって行く。


 黒い髪がサラサラと流れて、周りの男子たちの視線を引く。


 あいつら、フラれたのに、懲りない。


 やはり、男と言うのは、バカだ。


 あと、やっぱり、月島は尻もエロい。


「なーんか、怪しい」


「おわッ……って、朝宮かよ」


「よっ、イッチー」


 サイドテールがぶらんと揺れる。


 あと2つの風船も……


「怪しいって、何がだ?」


「イッチーとアッキーの雰囲気が。何かあったの?」


「いや、特に何もないぞ」


「本当に?」


「ああ。先週末に、デートしたくらいで」


「はあああぁ!? デート!?」


 乳もデカけりゃ、声もデカい。


 しかも、明るいリア充ちゃんだから、みんなの視線が自然と集まる。


 俺はとっさに立ち上がった。


「ちょっと来い」


「ほ、ほえッ?」


 トボけた声を漏らす朝宮の手を引いて、俺は廊下に出た。


 人の少ない場所までやって来る。


「……ねえ、イッチー。本当に、アッキーとデートしたの?」


「ああ。まあ、お互いに練習だけどな」


「練習……」


「お前も聞いているかもしれないが、月島をダシにしてクラスの男子どもから金を巻き上げたんだ」


「さすが、クズだね」


「で、そのお詫びというか、お礼というか……そんな感じで、月島とデートした」


「……どんな風に?」


「別に大したことはしてねーよ。ただ、クレープを食いながら、駄弁っただけ」


「何味のクレープ?」


「2人ともチョコ。てか、月島のやつ、最初はイチゴを選ぼうとしてさ。いやいや、それはお前のキャラじゃない、朝宮の担当だろって言って。まあ、俺もイチゴを選ぼうとして、同じようなツッコミをされて……」


「って、めちゃラブラブやないかい!」


 ベシッ!


「おぅふッ!?」


 俺はくぐもった声を漏らす。


「お、おまっ……俺はお前や月島みたいに、胸部装甲が厚くないんだぞ?」


「うるさいよ、セクハラマン」


 朝宮は腕組みをし、自慢の胸部装甲を強調する。


 ジト目を俺に向けながら、


「……イッチーは、アッキーのことが好きなの?」


「ああ、好きだな」


「即答!?」


「だって、使える女だし」


「いやいや、そういうことじゃなくて……」


「まあ、頭が良いからな、あの女は。会話していて、楽しいよ」


「……ふぅ~ん?」


 朝宮は、クルクルと前髪をいじる。


「……ずるいなぁ、アッキーばかり」


「何が?」


「あたしも、クレープ食べたい」


「えっ? じゃあ、友達と行けば? お前は月島と違って、たくさんいるだろ?」


「そうじゃなくて……イッチーと行きたい」


「いや、ごめん。当面の間、あの甘ったるいモノは食いたくない」


「ねえ、その意外とスラッと長い脚、蹴っても良い?」


「やめてくれ。ていうか、どうした? いつもご機嫌な朝宮さんが、今日は随分と不機嫌で攻撃的じゃないか?」


「別にぃ~? 誰のせいでしょうかね~?」


「何だよ、彼氏とケンカでもしたのか? だったら、八つ当たりはやめてくれよ」


「いや、彼氏とかいないし……」


「はっ? もったいないだろ……ああ、でもその方が良いかもな」


「へっ?」


「将来、グラドルになった時、過去を詮索されて、本当に1度も付き合ったことがなくて、なおかつ処女認定されたら、ファンも大勢つくだろうからな」


「……イッチー嫌い」


「えっ、マジで? みんなに優しいお前に嫌われるとか、さすがの俺もショックなんだけど」


「ふん、あっそ」


「これは困ったな。お前は使える女なのに、そのパイプを失うとなると……」


 俺はブツブツと呟き、自分の中で色々とプランを練り直す。


「……許して欲しい?」


「ああ、許して欲しい」


「じゃあ、1つだけ、条件があります」


「何でしょうか?」


「その、あたしとも……デートして?」


「ああ、えっと……月島ともしたみたいな、練習のか?」


「……まあ、それでも良いけど……いまのところは」


「んっ?」


「何でもないよ~だ」


 あかんべーされてしまう。


 古典的だけど、こいつがやると今風というか、可愛いな。


 ちなみに、月島さんがやると、微妙にダサくなる不思議。


「じゃあ、ちゃちゃっと、今日の放課後にするか?」


「ちゃちゃっと? 何それ? 女の子のデートに対するモチベーションなめてんの?」


「えっ、たかだか練習なのに? しかも、俺とお前は見知った仲だし、友達だろ?」


「……まあ、そうだね」


 朝宮は沈みかけた表情で言う。


「はぁ~、分かったよ。じゃあ、今週末にどうだ?」


「うん、良いよ」


 ニコッと笑顔になった。


「へぇ~、意外だな。お前は友達が多いから、週末も予定は埋まっていると思ったのに」


「良いよ、友達とは普段、いっぱい遊んでいるし……イッチーとのデートの方が、貴重だから」


「そうか、俺はレアキャラか」


「いや、いつも教室で会うし、レアってほどじゃないよ」


「じゃあ、何キャラだ?」


「う~ん……ウザキャラ?」


「おい、そこはクズキャラにしてくれ」


「って、自分でクズって言うなし!」


 ベシッ!


「おふっ……だから、お前らみたいに胸部装甲が立派じゃないの」


「じゃあ、イッチー筋トレすれば?」


「えぇ~、俺がマッチョとかどうなん?」


「う~ん……ぶっちゃけ、キモいね」


「そこはせめて、笑ってくれよ」


「アハハ」


 こうして、朝宮ともデートすることになった。


 あくまでも、練習だけどな。




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