文章の書き方を忘れた

メモ帳

初日の出

 もしも宇宙の始まりから終わりまでの全ての出来事を記録している宇宙年表と呼ばれるものがあったとして、そして自分がそれを認知する観測者だったとして、今という概念は明確に定義できるのだろうか。

 そんなことを考えていると、自分が思考している今が過去に消えていくことに気づき、時の流れを実感させられた。その流れに逆らおうとクロールをして、水流に流されることしか能のないクラゲに中指を立てた。

 そんな2023年の1月1日の朝。

 誕生日に生まれた瞬間の記憶がない自分は、本当に母親から生まれたのだろうかという疑問は野暮であるという突っ込みをされた過去を振り返りながら、太陽が地平線の彼方から昇ってくる様を眺めた。人類が死滅した後も、きっとあの朝焼けは赤いのだろうと思う。

 ……いや、待て。

 人類が死滅した後、赤が可視領域に含まれない犬が、地上における覇権を握った場合、あの朝焼けは赤くないのではないだろうか。犬がただの群れから国家という契約で結ばれた社会的関係を形成し、インダス川や長江、黄河の河口で文明を築き始めた時。骨の使用用途が囓って遊ぶだけのおもちゃではなく、焼きを入れるなどして付いた傷を見て占いをする道具としての使用用途へと切り替わっていたくらいのタイミングで、犬たちは朝焼けは赤いと語ってくれるだろうか。

 ガガーリンが告げた地球は青かったという台詞は、地球は灰色だったという詩的表現と入れ替わってしまうのだろうか。宇宙船に乗って打ち上げられ、地球軌道を初めて一周した犬・ライカから見た地球は、一体どのような色をしていたのだろう。聞いたとてワンッとしか答えてくれなかったが、仲間の犬には「マジ卍w」くらい語ってくれたと思う。

 ……そんなことを考えたところで、今、私が観測している朝焼けは赤いし、昼の空は青い。宇宙旅行をしたことはないが、地球はおそらく青いのだろう。切った爪の色は白いし、徹夜明けの目は赤い。

 いくら初日の出を見るためとはいえ、コーヒーをがぶ飲みしながら夜を明かすのは健康によろしくない。こういう年明けもたまには悪くないのではないかと思うが、寿命が一時間くらい減ったと言われても納得する。

 そんな私が歩んだ2022年の出来事について、ここで振り返っても良いが、短いようで長い1年間の全てを振り返るには、あまりに体力がなさ過ぎる。いつか探し出した宇宙年表の2022年の項でも確認して欲しい。少なくとも私の想像上の宇宙年表は、検索機能が付いている。SQLで記述されたデータベースで管理され、定期的にサーバの増設が行われているに違いない。

 そんな宇宙年表、2023年の項、筆者の出来事の一行目はこうして始まる。

『初日の出を見るために徹夜したことをネタにエッセイをしたためた』

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