桜と雨と君の横顔
薄暗い窓辺
花散らしの雨
張りつく花びら
雨だれの窓枠
花粉症の僕にとって、雨は幸運だ。
踊り狂う花粉を入れまいと、冬から締め切った窓を開ける。
冷たく乾燥した空気が逃げ、じっとりとした湿気が入る。
本来は不快であろうその空気が、僕に安心感を与える。
皮肉だね。
さぁ、外へ出よう。今しかないから。
意味の無い不快な思いはもうしたくない。
流行病と花粉を避ける為に部屋に篭もり、眺めた通販で一目惚れして買った傘を手にする。
やっと出番だな?待ちわびたろ?
紺のチェックの花を咲かせよう、なんてな。
ものぐさの僕にとって、雨は不幸だ。
晴れた時に出歩けない等、本末転倒もいい所だ。
恵の雨だなんて誰が言ったのか。
間違えて履いてきた布製のスニーカーに雨水は染みてくるわ、パンツの裾は汚くなるわ。
街に出るまでの桜並木だって、散ってしまっているじゃないか。
「花散らしの雨」なんて、聞こえは良いねぇ・・・
・・・
そうだね、散っている。
散り落ちた花びらはどうなるのだろうか。
土に還り、養分となり、本体へ戻る?
それとも枯れて、跡形もなく消えるのだろうか?
僕の場合は・・・後者だったな。
僕にとって、君は雨だ。
しとしとと鬱陶しく傍にいた。
あーだこーだと口うるさく、
のんびりと寝ている僕を起こし、
ちゃんと掃除しないと体にカビが生えるよ、
なんて。
小姑みたいだった。
ぱらぱらと暖かく傍にいた。
仕事で失敗して落ち込んでいる、
僕の話を根気よく聞き、
無理に励まさず美味しいものを作ってくれて、
潤いをくれた。
何が悪かったんだろうねぇ・・・
あの桜のように
散ってしまったなぁ
居なくなった後の、この落ちてしまった想いは
枯れて無くなるんだろうか・・・
そうだよな、桜
本体のお前も気になるよな?
・・・僕はさ
もう、なんだっていいよ
通販で買った、もうひとつの赤い傘
もう、どうだっていいよ
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