自宅、完成! 01
完成した家は、まるで避暑地にあるコテージのような見た目だった。
贅沢に丸太を組んで作られた外壁に、木製の開閉式の窓。
玄関の前にはゆったりくつろげるテラスがあって、食事が取れるように丸テーブルが設置されている。
さらに玄関の扉の取手部分は切り出した樹木がそのまま使われていて、すごくおしゃれな雰囲気を出している。
「もうこの時点でめちゃくちゃ良いんだけど」
「そうですね。集落に建ててもらった家より、かなりおしゃれな気がします」
想像以上の完成度だったのか、ララノも少々驚いている様子だ。
そんな僕たちにブリジットが尋ねてくる。
「これは凄い。この家は誰が作ったのだ? 王都から一流の建築士でも呼んだのか?」
「作ってくれたのはララノが呼んでくれた動物たちだよ」
「……は? 動物?」
まさに狐につままれたような顔をするブリジット。
ポカンとしている彼女を連れて、玄関のドアを開ける。
「うわぁ……」
思わずため息のような声が漏れ出してしまった。
僕たちを迎えてくれたのは、陽の光が差し込む吹き抜けの玄関。
見上げると二階の窓から空が見えている。あそこから光が差し込んでいるようだ。明るくて開放感があり、おちついた雰囲気がある。
リビングはもっと凄かった。天井が高く吹き抜けになっていて、二階部分がロフトみたいになっている。
リビングにはまだ家具はないけれど、綺麗なキッチンがあって、切り株を使った可愛い椅子がいくつか置いてあった。
切り株の椅子もそうだけれどキッチンも全部木製だし、一体どうやって作ったんだろう。動物たちって凄すぎませんか?
驚きの連続で語彙力を失い、「わぁ」とか「凄い」しか言えなくなった僕たちは、二階へと向かった。
二階も一階に負けないくらい豪華だった。
吹き抜けのロフト部分にはミニキッチンがあって、ここだけでも十分生活できそうな広さがある。
さらに部屋が六つほどあって、その全部にベッドが用意されていた。
流石に毛布はなかったけど、今テントで使っているものを流用すれば快適に過ごせそうだ。
「……ちょっと凄すぎて言葉が出ないね。間取りやデザインはララノの指示なの?」
「いえ、大雑把な指示は出しましたけど、細かいものは現場監督に任せました」
「現場監督?」
「大きな熊がいましたよね? あの子が細かい指示を出しているんです」
「あ〜……」
そう言えば、ララノと話している熊がいたな。頻繁にララノと話し合っていたみたいだったけど、あの熊が現場監督だったのか。
てことは、これはあの熊のデザイン?
もしかして現代からデザイナーが熊に転生してきたのかな?
「ところでブリジットさんは?」
「奥の部屋にいるよ。『私の部屋はここにする』とかはしゃいでた」
「……そうですか」
ララノの声からスッと感情が消えていく。
「あ、いやいや、もちろん勝手に言ってるだけだからね? ブリジットは名門デファンデール家の人間だし、本当ならこんな所にいていい人じゃないんだ」
ブリジットは肩書だけじゃなく、瘴気マスクの発展に貢献した実績も持っている錬金術師だ。
そんな人間をここに滞在させておくのは、国にとって大損害にほかならない。
「今はここに居たいって言ってるけど、すぐに飽きて王都に帰るって言い始めると思う。だからまぁ、今日は泊まって貰って明日にもう一回説得してから──」
「では、晩餐を開きましょうか」
「そうそう晩餐でも……って、え? 晩餐?」
「はい。この農園にいらっしゃった、初めてのお客様ですし」
ちょっと驚いてしまった。
ブリジットに対抗心を燃やしてたみたいだし、てっきり「今すぐ帰って欲しいです」って言うのかと思ってた。
「だ、大丈夫なの?」
「もちろんですよ。だってブリジットさんはサタ様のご友人じゃないですか。しっかりおもてなししないといけませんよね」
「ラ、ララノ……」
ララノの優しさに思わず涙ぐみそうになった。
ブリジットは面倒な性格だけれど悪い人間じゃないし、院の中で僕を慕ってくれていた数少ない人間だった。
だから、ここに住ませることはできないけど、もてなしやりたいとは思っていた。その気持ちをララノが汲んでくれたことは、素直に嬉しい。
「……料理の腕を披露して、私には絶対勝てないということをわからせとかないと……」
「え? 何か言った?」
「いえっ! 何も言ってません!」
ブンブンと首を横に振るララノ。
何か変なこと言ってたような気がするけど、聞き間違いか。
「ありがとうララノ。それじゃあ、家を作ってくれた動物たちも呼んで盛大に晩餐を開こうか」
「それは良いアイデアですね! あの子たちもきっと喜ぶと思います!」
街で肉や魚も買ってきたし、動物たちも満足するだろう。
善は急げとブリジットに声をかけて晩餐の準備をすることにした。
ララノに動物たちを呼んでもらっている間に、僕は畑に野菜を取りに行く。
農園を離れている間に収穫してもらったものがあるけれど、折角なら採れたてを食べさせてやりたいからね。
リビングに来たブリジットに「私はどうすれば?」と尋ねられたので、のんびりしていてもらうことにした。
主賓に手伝わせるわけにはいかないしね。
というわけで、ひとりで家を出て畑に向かう。
玄関先にはトーチのような物があって、畑への道にも同じものが点々と設置されていた。火を灯せば夜間でも安全に畑まで行けそうだ。
ざっと畑を見て回ったところ、トマト、ミニトマト、オクラあたりが収穫できそうだった。
トマトはそのまま食べても美味いし、オクラは塩をすりこんで軽く茹でるだけでこれまた筆舌に尽くしがたいおいしさがある。
シンプルだけど、素材の味をぞんぶんに楽しめる最高の方法だ。
「サタ先輩」
トマトの収穫をしていたら、ブリジットが畑にやってきた。
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