ブドウ園を救おう 02

 朽ちかけている樹木に付与魔法をかけるのは初めてだけど、元々樹木に備わっている「再生能力」を促進させれば行けるはず。


 使うのは再生能力を上げる「生命力強化」に成長能力を促進させる「俊敏力強化」……それに瘴気対策の「免疫力強化」ってところかな。


 そっと樹木に触れて、魔法を発動させる。


 手のひらが青く発光した瞬間、ブドウの木に変化がおきた。


 ボロボロになっていた皮の下から水々しい新しい樹皮が生まれ、まるで眠りから覚めたかのように生き生きと枝葉が伸びていく。


 わずか一分足らずでブドウの木には青々とした葉っぱが広がり、美味しそうなブドウを実らせていく。


 うん、これは大成功だな。


「……は?」


 それを隣で見ていたラングレさんが、気の抜けた声を漏らした。


 さらにその隣でもプッチさんが目を丸くしていた。


「……え? は? なんですかこれ? いやいや、流石に可愛いボクでも騙されませんからね? 何の冗談なんです?」


 困惑するあまり、バシバシと僕の背中を叩き始めるプッチさん。


 そんな中、唯一冷静なララノだけが嬉しそうに「うわぁ〜、美味しそうなブドウが実りましたね!」と声をあげた。


「……ちょ、ちょちょ、ちょっと待ってください、サタさん!」


 大混乱に陥ったラングレさんが、僕の腕をぐいぐいと引っ張る。


「これって、どういうことですか!? 一体どんな魔法を!?」

「聞いたことは無いと思いますが『付与魔法』という特殊な魔法が使えまして。その能力を使ってブドウの木の再生力と成長力を促進させたんですよ」

「ふ、付与魔法? 成長力を促進?」

「はい。ブドウの木は第二属性の『木属性』なので、生命力強化と俊敏力強化が付与できるんです」

「……なるほ、ど?」


 ラングレさんはわかったようなわからなかったような、微妙な返事をする。


 理解できないのならそれはそれで良いか。


 細かく説明すると専門的になっちゃうし。


「す、すすす、凄くないですか、サタさんっ!?」


 と、今度はプッチさんがラングレさんとは逆の腕を引っ張りはじめた。


「付与魔法!? なんですかそれは!? 再生力と成長力を促進させる魔法なんて聞いたことがないですよ!? や、ララノさんが出来ると仰っていたので疑ってはいませんでしたけど、それにしてもちょっと凄すぎませんか!?」

「そうでしょう? サタ様は凄いお方なんですから」


 えっへんとドヤ顔で胸を張るララノ。


 そんな彼女の前で膝を折ったプッチさんが「ありがたや!」と祈りを捧げはじめる。


 あの、付与魔法をかけたのは僕なんですけどね?


「……し、しかし、本当に枯れたブドウの木が再生するなんて」


 感慨深そうにラングレさんが命を取り戻したブドウの木を撫でる。


「一体何とお礼を言ったらいいか」

「あ、待ってください。まだ問題は解決したわけじゃないですから」

「え? そうなんですか?」

「はい。一本二本程度だったら手作業で付与魔法をかけることができますが、全ての木に手作業で魔法をかけて周るのは、ちょっと現実的じゃないんです」


 魔法は体に貯めている「魔力」を使うので、発動できる回数に制限がある。


 休み休みやれば行けるかもしれないけれど、その分作業時間が増えてしまう。


 手分けしてできれば良いんだろうけれど、付与魔法は僕しか使えないし。


「魔法の効力を長持ちさせるために土壌にも付与魔法をかけないといけません。それを考えると……途方も無い時間がかかってしまいます。下手をしたらひと月やふた月では終わらないかもしれません」

「なるほど。ということは、いかにして効率的に付与魔法をかけるかが問題ということですね……ううむ」


 ラングレさんが髭をさすりながら唸る。


「問題は理解できましたが、それは解決できるものなんでしょうか?」

「ん〜、そうですね……」


 しばしブドウの木を見上げて考える。


 乗りかかった船だから、できれば綺麗に解決してあげたい。


 ──だけど、どうやってこの膨大なブドウの木に効率良く付与魔法をかければいいんだ?

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