夫人のお仕事②

 折角いらしたのだからと、わたしはお義母様を、庭が見える・・・・・テラスへお誘いした。

 マルティナがお茶を淹れている間、お義母様は何気なしに庭を見ていた。つられて私も庭を見て、大切なに小さな雑草の姿を発見した。

 そういえば最近忙しくて世話をしていなかったな~

「ねえクリスタ」

「はい。なんでしょうお義母様」

「そこの花壇がなんだか畑の様に見えるのだけど、わたくしの気のせいかしら?」

 いいえ気のせいじゃないです。だってそれ畑ですものと、そんなことが言える訳もなく、わたしはつぃと視線を外した。

 そして小一時間ほど叱られた……



 お説教を頂いた後は本題のお茶会の話に戻った。

 前置き長すぎでしょ。

「お茶会で一番大切なことはなんだか分かるかしら?」

「お茶とお菓子があることですね」

 実家の事を思い出してパッと頭に浮かんだ答えを返した。

「クリスタの苦労は十分に分かっているつもりだけど、いまはその考えは捨てなさい」

 こんな答えを返したわたしが悪いのだが、困ったような顔でそう言われるとわたしも辛いわね。

「ごめんなさい、何分経験がないので分かりません」

「そうだったわね、一番大切なのは席順よ」

「ええっ席順?」

 確か王妃様のお茶会だと、王妃様の左右にお義母様とベルのお母さんが座ったよね。王妃様の逆の誕生日席には王女様が座っていらして、その左右はわたしとベルだった。

 王妃様から見て右手にお義母様だが、王女様から見ると左手がわたしになる。

 んーと。

「右手と左手だとどちらが上でしょうか?」

「あらクリスタにしては良い質問ね」

 わたしにしてはって……

 まあ先ほどの答えを聞けばそんな台詞も浮かぶかしら。

 私がしばし無言でいたらと、お義母様はにこやかに笑いながら「どちらだと思う?」と訪ねてきた。

 この顔は絶対に楽しんでるよね?


「えーと左でしょうか?」

 記憶を探ってもう一つ思い出したのはベルのお茶会だった。

 わたしはたしかベルの左手に座っていた。

 当時の爵位こそ子爵だったけれど、将来の公爵夫人を見越してベルが席を決めたと予想すればおのずと答えは出るわ。

 この答えは自信あり!

「違うわ、右手側よ」

「えっじゃあベルが間違えたのですか?」

「どういう事かしら?」

 しまった余計な事を言っちゃった。

 願わくばベルに飛び火しませんように……


 さてかくかくしかじかと当時の様子を話せば、お義母様はなるほどねとしたり顔で頷いた。

「ベルティルデは一つも間違っていないわよ」

「なるほどーと言う事は、将来の爵位に関わらず今の爵位で席を決めるのが正しいのですね」

「呆れたわ、貴女はどうしてそう言う答えになるの?」

 えーどういう事!?

 さらに続けて「自分で考えて見なさい」と言って、お義母様は正解を教えてくれなかった。ちなみに当たり前だがベルに聞くのも禁止された……



 お義母様は「宿題よ」と言い残して帰って行った。

 いまの爵位ではないということは将来の爵位として、公爵夫人わたし侯爵令嬢ベルの左手にいた理由は何か?

 うーんわからんない!

 でもベルに聞くなって言われてるしなぁ。

 ん? そっか、だったらリアナに聞けばいいじゃない。


 ベルとリアナはタイプは違えど、どちらも侯爵令嬢だ。きっとその理由も知っているだろう。

 わたしはすぐにボンヘッファー侯爵家に先触れを出した。

 ところがその伝令役は、再び手紙ではなくて、本人、つまりリアナを連れて帰ってきた。お義母様とリアナが悪いのか、それとも伝令が悪いのか……

 前者と言いたいのは山々だけど、伝令を変えてみようかしら?

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