第16話
リョウが、シェンの姿を見て血相を変える。
「シェン! お前っ!」
「リョ、リョウ……」
リョウは影たちがまだ倒れているのを確認すると、シェンの元に駆け寄り真剣な表情でシェンの肩を掴んだ。
「一気に抜くぞ」
「うん……っ」
包丁の柄を持つと、シェンの腹から包丁を引っこ抜く。これは夢だ、何もないんだと目を閉じながら繰り返していると、リョウがシェンの頭を撫でた。目をそっと開けると、腹部には血痕すら残っていない。
「よし、出来たな」
リョウはニカッと笑うと、振り返って影に向かい構えた。
「……俺が、お母さんの方を相手しようか?」
影はようやく立ち上がると、武器を構えてこちらを睨みつける。
ここでも自分は目を背けるのか。だったらこの二年間はなんだったのか――。
シェンはリョウを見上げると、はっきりと答えた。
「……気にしなくていい。俺がやる」
獏の核は父さんの方だしな。シェンがそう言うと、母が突然わめき始めた。
「シェンはいい子だったのに! 私のシェンがそんなことを言う筈がないわ!」
そして地面を蹴ると目の前に急接近し、二人に襲いかかる。ブン! と風を切った切っ先が二人の腕を掠ったが、シェンは今度はそんな母に攻撃を返した。
母の左腕が宙を舞い、掻き消える。
「シェンが私を傷付けるなんて!」
リョウが来てくれて、呑まれそうになっていた意識が完全に戻ってきた。考えてみれば、あの母がシェンに攻撃する筈がないのに。
自分の弱さに腹が立ったが、まだ挽回は出来る。
シェンは母に駆け寄ると、剣戟を振るった。
「お前は母さんじゃない! 獏が作り出した幻だ!」
「シェ、シェン……!」
やめて、母さんを苛めないで。そう言って泣き出した母の闇色の目には憎悪の色がありありと浮かんでいた。こんなの、偽物でしかあり得ないのに。
シェンの攻撃で、母の右腕も霞となって消える。
シェンは影に向かって怒鳴った。怒鳴ることで、自分を鼓舞したかった。
「母さんはな、俺には滅茶苦茶甘かったんだ! 俺を攻撃するなんてあり得ねえんだよ、ばーか!」
「シェン!」
歯を剥き出した母が突進してきたが、シェンはそれをひらりと躱すと、背後から思い切り斬りつける。
母の形をした影の銀髪が広がるとあの日の光景と重なったが、これは母じゃない。シェンは唇を噛み締めると、憎悪に染まった顔で振り向いた影の首をはねた。
瞬間、銀髪すらも全て宙に消える。
「――よしっ!」
色々と思うことはあったが、ちゃんと対処出来た。シェンが拳を握り締めつつリョウを振り返ると。
「……リョウ!?」
いつも強くて飄々としているリョウの身体は、血だらけになっていた。普段、夢の世界では傷を負っても血などすぐ消えるリョウなのに。
父も片腕を失ってはいたが、その顔は悪魔の様な壮絶な笑みを浮かべている。
「やべえ、こいつ滅茶苦茶強え……!」
「長生きしてる獏だからか!?」
「影も影っぽくないしな、可能性はある」
リョウのまさかの苦戦に、シェンはひとつ頷くとリョウの隣に立った。
「おい、俺はいい相棒なんだろ」
「え? どうした急に」
リョウの驚いた顔がおかしくて、シェンは小さく笑う。
「俺が囮になって奴の動きを止める。リョウは隙を見てトドメを刺せ」
「えっ!? あ、おい!」
リョウの静止を聞かず、シェンは父に向かって走り出した。大丈夫、ここは夢の中だから。リョウに向かって叫ぶ。
「俺の背中を預けられるのはお前だけだからな! 信じてるぞ!」
「シェン! ……畜生!」
シェンが近寄ると、父は鍬を構えて振り被った。第一撃は地面に食い込み、突き刺さる。父が鍬の柄をぱっと離すと、直後右手に母が持っていた包丁が現れた。それを大きく振りかぶる。
――鍬よりはいいか。
シェンはにやりと笑うと、腹部目掛けて突き出された包丁をその身に受け止めた。
「……ぐうっ!」
これは夢、夢だから。シェンは父の腕を両手でしっかりと掴むと、身を屈める。手の中に具現化した重しのついた鎖を、自分の腕ごと父の腕に巻きつけた。
父の、焦りを隠さない憎悪の表情。ざまあみろだ。
「リョウ!」
「おま……! 後で説教だからな!」
空から、リョウが風を切りながら降ってきたと思うと、リョウ愛用の大剣が父の影である獏の核、首を切り落とした。
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