第56話 検非違使庁
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御前会議で幕府に対する処分が話し合われて内容が決まったのでそれを伝える為の勅使が室町殿に向かった。御前会議に参加していた北畠晴具から話を聞いた信長は自邸に戻り、信行と北畠具房に遣いを出して呼び寄せた。
「御上は厳しい処分を望まれたが、幕府の逆恨みを恐れる連中が懇願した事で軽くなったそうだ」
「和田惟政は官位剥奪され、足利公方は厳重注意を受けた…。勘十郎義兄上はどう思われますか?」
「これが妥当な線だと思うけどね。次に問題を起こせば征夷大将軍を剥奪するとまで言われると静かにせざるを得ないよ」
「内府殿(内大臣北畠晴具)から聞いたが、御上は役に立たない幕府など不要だと言われたそうだ」
今回の一件を晴具から報告を受けた天皇(正親町天皇)は幕府の対応に激怒した。応仁の大乱で荒れ果てた都に何ら手を差し伸べず権力争いを続けている幕府が朝廷から代役を任された織田や北畠に対して傲慢不遜な態度を取った事がとどめになった。
「そこまで仰せになるとは余程腹に据えかねていたのでしょう」
「色々積み重なった結果だよ」
幕府が下手を打ち過ぎたからだと信行は呆れ顔で答えた。
「幕府が機能していない事が内外に知られたので我々の役割が重要になるのは否めんな」
「兄上、その件は内府様を交えて考える必要がありますね」
「その通りだ。具房、内府殿にこの件を伝えてくれるか」
「分かりました。明日の朝に集まれるよう手配しておきます」
*****
翌朝、北畠晴具の屋敷に信長と信行が訪れた。
「内府殿、昨日は大変でしたな」
「全くだ。怒り心頭の御上を鎮める為に左府(左大臣西園寺公朝)と共に苦労したぞ」
「幕府側の様子は聞かれましたか?」
「足利公方は詳細を聞いていなかったらしく、細川藤孝を問い質していたぞ」
細川藤孝は公方に対して和田惟政が信行と揉め事を起こしたと伝えていたが、朝廷にまで影響が及んでいる事を隠していた。
「細川は勅使と単独で会っていたが、偶然に公方が顔を出した事で全てが表沙汰になった」
「あの男は有能なので公方が手離す事は無いでしょう。有るとすれば…」
藤孝は公家や町衆に顔が利く事から公方も重用しているので罷免される可能性は低いと考えられた。
「有るとすれば?」
「詰め腹を切らされる者が出ると思いますよ」
当事者の和田惟政は責任回避の為に逃げ出して姿を消している。考えられるのは同席していた三淵藤英しか居なかった。
「三淵は細川の実兄で公方の信頼も厚い。切られるとは思えんが」
「分かりませんよ。権力の中枢に居れば一寸先は闇と言いますからね」
幕府内部で持ち上がった責任論の一環で当事者の和田惟政だけでなく、その場に居合わせたのに止める事が出来なかった三淵藤英に腹を切らせろという意見が出されて話し合いが紛糾していた。
「御爺様、今後の事を考えなければなりません」
「うむ。参議(信長)はどうだ?」
「我々は領地を抱える身。然るべき者を奉行に任じて都を任せるべきと思いますが」
「名案だが北畠は適任者が居ない。今後の事を考えれば具房に任せたいが、お市が子を産んだばかりで伊勢から動けんからな」
晴具は具房に経験を積ませたい考えを持っていたが正室の市が側に居ないのは環境的に良くなく、具房自身も良い顔をしないので織田に任せる考えを持っていた。
「それなら織田から人を出すしかありませんね」
「本心を言えば治部に任せたいが、今川の事があるからな」
「私も内府殿と同じ考えです」
「困りましたね。駿河の事があるので曳馬に戻りたいのですが」
晴具と信長が自分を候補に挙げようとしていたので信行は勘弁してくれと首を横に振った。
「勘十郎、お前にしないから心配するな。内府殿には案を伝えて内諾を得ている」
「二人して驚かさないでくださいよ」
「治部を騙せるとは面白かった」
「内府殿も笑いを堪えるのに必死でしたな」
二人は信行を驚かせて笑っていたが、信行と具房は冗談にも程があると白い目で二人を見た。
「誰を考えているのですか?」
「奉行には村井貞勝、補佐役に佐々成政と河尻秀隆を付ける。兵を率いる者が居なければ都を守れんからな」
「私も官吏の補佐役を出しますよ。植村正勝と木下秀長の二人を呼びましょう」
植村正勝は三河出身の家臣で三河衆に属しており、秀吉の部下として重宝されている。木下秀長は秀吉の実弟で正勝と同じく秀吉の部下である。農民だった秀長が出仕を願い出た時は秀吉から性に合わないと止められたが、その場に居合わせた信行からしばらく官吏としてやらせてみて駄目なら足軽として働けば良いと言われて召し抱えられた。その後は秀吉の見込み違いと言われる位の働きぶりで重宝されるようになっていた。
「有名無実となっている検非違使庁を復活させて都の政務と治安維持に当たらせる。具房を別当(長官)に立てて、村井貞勝を佐(次官)として権限を持たせる。後の四人を判官と主典に任じて実務を任せれば良いだろう」
「内府殿にお任せ致します」
「私も異存はありません」
信長と信行は晴具の案に同意した。具房は一旦伊勢に戻り、市と嫡男千秋丸が動けるようになれば都に常駐して職務に当たる事が決められた。
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