第14話 美濃へ向かう(1555) 修正版

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ご意見・ご感想を頂ければ幸いです。

信長と帰蝶との間に嫡男を設けた設定にしています。

2024.5.25修正


=====


「直虎、よう頑張った!」

「ありがとうございます」


信行の嫡男が産まれた事を聞いた信長は先触れも出さず唐突に鳴海城を訪れていた。


「兄上、声が大きいです。千早丸が目を覚ますじゃないですか」


気分上々の信長が大声で話をするので信行は呆れ顔で注意していた。

直虎は義兄信長が千早丸誕生を喜んでいるので笑顔を見せていた。


「悪かったな」

「先日義姉上から手紙が来ましたよ。色々説教されたらしいですね?」

「帰蝶の奴め…」


嫌味を言われて機嫌を少々損ねた信長だったが、帰蝶から説教された件を持ち出されると急に顔色が悪くなった。

 

「吉法師にとんでもない名前を付けようとして姉上からこっぴどく叱られたとありましたが」

「それも書かれているとは…。まあ仕方あるまい。赤子の顔を見た瞬間に奇妙だと思ったからな」

「だからといって奇妙丸はいけませんよ」


信長は帰蝶が抱いていた嫡男の顔を見るなり名前を奇妙丸にすると言い出した。

呆気にとられた帰蝶だったが、我に返ると巫山戯た名前を付けるなと信長に怒りをぶつけた。


「あの時は帰蝶の顔が般若に見えたぞ」

「当たり前ですよ。私でも怒りますよ」


帰蝶が怒ると手が出る事があると信長から聞いていたので信行はその場に居合わせなくて良かったと思った。


「他の名前が咄嗟に浮かばなかったので吉法師にした」


信長は怒る帰蝶を宥めながら必死に名前を考えて最終的に吉法師と名付けた。


「義姉上からの手紙ですが、母上も目を通されてましたよ」

「何だと!」


実母土田御前の名前を聞いた信長は先程より顔色が悪くなった。


「挨拶される時は覚悟して下さい」

「勘十郎、俺を売ったのか?」

「無茶苦茶な事を言わないで下さいよ。私と直虎が手紙を読んでいる最中に母上が突然部屋に来られたのです。見られても仕方ない状況じゃないですか」

「拙い、拙過ぎるぞ!」


信長は帰蝶以上に土田御前が怖い存在なので頭の中で言い訳を必死に考え始めた。


「だから兄上、声が大きいですって」

「千早丸が目を覚ましてしまいましたね」


二人のやり取りを聞いて笑っていた直虎だったが、千早丸が目を覚まして泣き始めたのであやしながら部屋の外に出ていった。


「さあ、母上に挨拶してください。私も付いて行きますから」

「顔を合わせたくない…」


信行に促された信長は気落ちしたまま土田御前に挨拶した。

予想通り手紙の件を持ち出されて長々と説教されてしまい、凹んだまま那古野に帰っていった。


*****


山口親子に任せている知多水軍の件で相談する事があったので信行は那古野城を訪れた。

城内は戦の準備で慌ただしくなっているので首を傾げていると声を掛けられた。


「信行様じゃないですか」

「利家、元気そうだね」

「まあ何とか。今日は何の用事で?」

「水軍の件で兄上と話したい事があったのだけど、何かあったのかい?」

「詳しい話は聞いてませんが、斎藤義龍が謀反を起こしたらしいですよ」

「嫌な予感はしていたけど。兄上は斎藤道三を助ける為に戦を仕掛けるのか」

「そんなところだと思いますがね」

「相変わらず勘が鋭いな」

「兄上」

「今から美濃へ向かう。場合によっては弔い合戦になるかもしれん」


義龍は暗殺騒動の後、低姿勢で政務に励んでいた事が評価されて道三から家督て稲葉山城を譲られた。

道三は入れ替わりに鷺山城に入り、義龍の相談相手として余生を過ごす考えだった。

稲葉山に入った義龍は態度を豹変させて美濃を手に入れるべく行動を開始した。

家臣の大半を味方に付けると弟二人を稲葉山城で殺害、鷺山城に将兵を送り込んだ。



「兄上、出兵をしばらく遅らせて貰えませんか?」

「理由は?」

「稲葉山に出向いて斎藤義龍と談判致します」

「たわけ!」


信長は一喝すると恐ろしい形相で信行を睨みつけた。

この期に及んで馬鹿な事を言う弟に怒りを覚えた。


「斎藤義龍は蝮譲りの戦巧者。勝てますか?」

「今の織田なら勝算は十分にある」

「兄上が動いた隙に尾張を狙う者は居ないと断言出来ますか?」

「今川だな」

「おそらく今川と浅井に使者を送って援軍を頼んでいる筈」

「奴ならやりかねんな…」

「それだけに留まらず、信広兄者に手を伸ばしている噂を聞いていますよね?」

「三太夫から聞いている」


義龍は岩倉城主の織田信広に調略を仕掛けており、状況次第で謀反を起こしかねないと百地三太夫から情報が入っていた。


「今の尾張は内外に敵を抱えてる状況です。兄上には那古野で腰を据えて頂かないと」

「義龍のたわけが!」


信長は手に持っていた扇子を地面に投げつけた。


「この状況で動けるのは私だけですよね?」

「そうだな…」

「ではこれより稲葉山に向かいます。それと三太夫をお借りしますので」

「何を考えているのか知らんが無茶だけはするなよ」


信長は出陣命令を取り消して集結した将兵に待機命令を出した。


*****


【登場人物】

織田千早丸

→1555年生まれ、織田信行の嫡男(母は直虎)

織田吉法師

→1554年生まれ、織田信長の嫡男(母は帰蝶)

織田信広

→1531年生まれ、織田信秀の長男(信長兄弟とは腹違い)

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